BOOK 十六夜

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「やだ!ママと離れるなんてヤダ!」

「言うことききなさい、ずっと離れるわけじゃないんだから」

「それでもヤダ!」

「いいから、言うこと聞きなさい!!」

「ひぅっ……ま、まの、ばか!!」


次の日も変わらず、風はまだ言うことを聞いてくれない
というか、まだ理解できない
ぷらぷらと歩いていれば、昨日の子を見つけた
予定では明日、火の国に向けて子供の移動が始まる

できれば、今日の夜までにどうにかしたいけど
まだ、準備がたりない

まっすぐに走り出した昨日の子が気になって
気配を消して後を追った
家と家の間
壁と壁の間
微かな光しか入らないような、そんな隙間をとおり
ある場所で止まった


『すごい、綺麗だね』

「っ!昨日のお姉ちゃん」

『これ、育てたんだ』


壁と壁の間に、ひっそりと生きる、花
まだつぼみだけど、そろそろ開花してもいい頃


「私のお水、少しだけ分けてあげてるの、花が咲いたらママにあげるんだ」

『まま喜ぶね』

「だけど、明日、ままとバイバイしなきゃいけないんだって」


大人の考えは、まだ小さい子には理解できない
だけど、ずっとじゃない
と続けるけど
本音は、一緒にいたいんだ、母親と


「いっしょ、に…・・・いた、い」

『うん』

「おはな、さ、いたら、ままに・・・・・・」

『うん』


私が忘れてしまった、純粋な涙
これを、大人が、私たちが、守らなきゃ

ふわりと風が吹いた
生ぬるい風は、頬をかすめ
髪を流す
気配の変わった風に、準備は整ったと確信を得た

なきじゃくる子を親の元に返し、カカシを探す
今から準備しないと、あと砂の忍にも協力してもらって


『カカシ!』

「ナギさん、好きにしていいって言ったってさ、昨日、今日何してたのよ」

『カカシ水遁できるよね、他にも砂の忍で水遁出来る人集めて』

「…シカマル、手配できるな」

「はい」


とカカシはすぐに考えを読み取ってくれた
シカマルもテマリあたりに話にいってくれたと思う


『我愛羅は?』

「呼んだか?」

『今ある貯水タンクが満タンになるには、どの程度も雨が必要になる?』

「……3日ほど、降り続いてくれれば確実に」

『わかった』


あとは、日が落ちるのを待つだけなんだけど
きっと雨が降り続けば、気温も下がる
一般市民に、風邪をひかないよう伝達をしてもらって
夜まで仮眠をとる
大丈夫、大丈夫、きっと力を貸してくれるはずだから




昨日の夜のように一番高いところに上がる
きっと今頃、どの家庭も子供に言い聞かせている頃かな
明日、火の国に行く  と


『カカシ、水遁の用意できてる?』

「あぁ」

『じゃお願い』


カカシが手をあげれば、後ろに控えているシカマルが合図を送り
国の内部の空気中の水分量がぐんを上がった


「水遁、水鉄砲」


カカシの水遁は私にあたり、周りは水浸しになる
これで準備は整った

息を吸い込み
意識を集中していく


『風よ舞え  雲よ集え  雨雲よ月を隠せ
 大地を潤せ  雫よ降れ(くだれ) 愛しき この地に』


風よ運んでおいで
雨雲よ、雫を連れておいで
雲があつまり、月を隠す
薄い雲は重なり、重い色へと変わってゆく


『ここへ おいで』


ぽつりと、頬を濡らした
ぽつり、ぽつり と顔にあたる


「ホントに、雨が…・・・」


我愛羅の声に、砂の忍が声をあげる
まだもう少し意識を集中しないと、すぐ晴れちゃうから
私はまだ喜べないけど
少しの雨で喜んでくれたのはわかる


『あした あなたは笑っているのだろうか
 つないだ手と手を あきらめて失くした風景 ひとつ

 ここまで歩いておいで 歌を紡ぐように
 鮮える空に 泣かないで 愛した光が キラリ

 あした あなたは笑ってくれるだろうか
 抱えきれない 両手いっぱいの 思い出を胸に』


歌に思いを乗せて
言葉を紡ぐ
降り続け、数日のあいだ
乾いた人の心を潤すまで

歌を紡いだ唇が閉じ
一気に視界が暗くなる
倒れる体は言う事をきかなくて
じめんにぶつかる瞬間


「ナギさん、お疲れ様」


ぬくもりを

感じた

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