おジャ魔女どれみ

□第9話:愛し子
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春風さん達と別れた後、黙々と片付けを済ませた。

リカは春風さん達との最後のお別れを敢えて避けるために、約束の時間を待たずに魔女界に帰ることにしていた。

今私は、そんなリカ達を見送るべく、一緒に魔女ガエル村に来ていた。


「…リカ…本当にいいの?」

「よいよい。置き手紙もしてきたしな…ライムも仕事があるじゃろ?此処まででいいから、人間界に戻るといい。」

「…分かった。じゃ…また来るね。」


そろそろ世が開ける人間界に戻ろうとした時、シャランシャランと聞き覚えのある音が…

あれは…

女王の馬車…

私の目の前まで来た馬車。

だが、馬車の中には誰もいない。


「…時空管理官様。女王様がお待ちです。お乗りください。」


不思議に思っていた私に話かけてきたのは、馬車の手綱人である女王の側近リンさんであった。

…ゆきさんが呼んでる?

なんだろう…


「…分かりました。」


案内されるまま馬車に乗る。

城についてからは、案内人のリンさんの後ろを黙ってついて行っていたのだが…


「…あの…。」


なんとなく、ゆきさんが言っていたリンさんという魔女と話してみたくなった。

声をかけられた途端に、体をピクッと反応させるリンさん。

その場に立ち止まり、ロボットのようにぎこちなく振り返る。


「な…なんでしょうか…時空管理官様。」


……………

なるほど…

私の時空管理人という位に萎縮して、緊張しているのか…


「…私はライム・リーシャといいます。…ライムと呼んでくれたら嬉しいです…。」


緊張している人に緊張しなくていいと言ったところで、どうにもならない…

まずは名前から…


「…僭越ながら、女王様から伺っております。私はマジョリンと申します。時空管理官様に会えて光栄です。」


リンさんは、右腕を胸の上に掲げ、軽く会釈する。

何処かの某執事も同じように、目上の者に礼を振舞う時にしていた挨拶の仕方…

私はそんなことをされる存在でもないというのに…


「…時空管理人は、あくまで私の役職名…どうか、名前で呼んでください。」

「ッ…滅相も「ライム…呼んで下さい、リンさん…。」


必死に抵抗するリンさんの手を握り、顔をあげさせ、にっこり微笑えむ。


「ッ!…ライム…様…。」


顔を真っ赤にさせ、小さい声でそう言った途端、リンさんは視線をずらしだした。


「…ですが…リンさんはやめてもらえませんか…私はマジョリンです。」

「…魔女でもない私が、呼んでしまったらどうなるか分からないので…リンさんだと…嫌ですか?」





ドキンッ!!







…今…リンさんから凄い音が…


「…い…致し方ありません…。」


頭から湯気が出ているリンさん…

大丈夫だろうか…

体調でも悪いのかと問うと、全力で否定はしていたが…

顔を赤くしたままリンさんは先を急ぐようにまた私をゆきさんのもとへ案内しだす。


「…そうか…女王様に…似ておられるから…か…。」


歩きながら、ボソっと何かを言ったリンさん。


「…なんですか?」

「…いえ…もう直ぐつきます。」


ゆきさんのいる中庭まで案内してくれたリンさんは、別れ側に一言言ってきた。


「どうか…貴方様のその暖かいお力で、女王様を支えてください。」


…と。

どんなにリンさんがゆきさんのことを大事に思っているかが伝わってきた。


「…はい。」


リンさんの気持ちに応え、私達は別れてゆきさんのもとに歩みよる。


「…ゆきさん…。」

「ライムちゃん…来てくれてありがとう。」

「…いえ。」

「クスクス。実は、ライムちゃんにお願いがあって…」

「…お願い?」


その願いとやらを聞き、私は二つ返事で承諾した。


「ありがとう、ライムちゃん。」

「…いえ。貴方に…恩返しが出来るのなら…。」

「…ライムちゃん…。」


優しく抱き締めてくれているゆきさんの温もりが暖かい…

久しぶりだな…

その温もりに癒されながら、暫くゆきさんと話しをした。

すっかり話で遅くなってしまったが、なんとかゲートの時間までには間に合い、MAHO堂に戻った。

だが其処には、既に春風さん達おり、ゲートの前で立ちつくしていた。


「「「「ライムちゃん!!」」」」

「マジョリカは?!」


懇願するように詰め寄りだす春風さん達。


「…村だよ。…今、送ってきたところ…。」

「ッ…マジョリカ…。」

「なんで…なんでさよならも言わせてくれんのやッ!」

「そうだよッ!…最後くらい…。」


おそらく、この子達はリカの置き手紙を既に読んだのだろう。

リカが別れるのが辛いからと敢えて約束を守らなかったのも、全て知った上で…

悲しみに打ちひしがれる春風さん達…


「…リカに…会いたい?」

「「「「ッ!」」」」


先程までの涙は何処へ行ったやら…

私のその一言に勢いよく、上を向きだす。

四人は、それぞれ顔を見合い、しばらく考えた上で、


「「「「会いたい!!」」」」


と言った。


「…行こう。」


春風さんの手を引いて、再度魔女界のゲートを潜る。

本来なら時間的に行き来は無理なのだが、ゆきさんの協力のもとそれが出来た。

その理由は、後で分かる。

魔女界に来れた事に春風さん達は大喜び、抱きつかれて感謝された。

そして、私の案内のもと魔女ガエルの村に向かうことになった。


「…こっちが近道だよ…。」


そう言って立ち寄った場所は、本来立ち入り禁止区域である女王の薔薇園であった。

ここに来たのには、訳がある。

それは…


「うわーー!!大きい薔薇〜!!」


そういう春風さんの前には、大きく蕾をつけている青い薔薇がいた。

……………。

初めて魔女界の薔薇を見たが…

話に聞いていた以上に…

…綺麗…

私はその薔薇に魅せられ、ゆっくりと歩みよる。


「…ライムちゃん?」

「…どうしたの?」


今の私には、春風さん達の声は届いていない。


【ヤット…アエタ】

「…え…。」


薔薇から声がしたと同時に、この中でも一番大きい一輪の薔薇が枝を伸ばして私の前に来た。

まるで触れてくれと言わんばかりのその薔薇に手を伸ばす。


【コノコヲ…オネガイ…】

「…おいで。」


先程もこの薔薇が言ったことに気づき、私は薔薇に両手を広げた。

薔薇は蕾を開き、中にいる赤ん坊をそっと私の両手に乗せた。

その途端に役目を終えたとばかりに薔薇は枯れていく。


「…この子を育てくれて…ありがとう…お疲れ様…。」


私は枯れた薔薇を撫で、抱えている赤ん坊を落とさないように春風さんのもとまで歩く。

未だに状況が掴めていない春風さん達は、こちらをみたままポカーンとしたまま…

そんな中、第一声を発したのは春風さんであった。


「赤…ちゃん?」

「なんで…薔薇から赤ちゃんなんや?」

「…そういえば、魔女は薔薇の花から生まれるって…マジョルカが…。」

「へ〜…ライムちゃん。その子、抱かせて〜!」


春風さんにそっと赤ん坊を預けるがその刺激で起きてしまい、春風さんをじっと見つめている。

赤ん坊は一番初めに見た人を母親と認識する…

恐らく今この子は、春風さんを母親と認識した。

その直後、赤ん坊は泣き出し、それに春風さん達もどうしたものかと焦りだす。

終いには、赤ん坊がお漏らしをしてしまうが、その対応も知らない春風さん達は更に焦りだす。


「…落ちついて…まず、赤ちゃんの洋服を変えよう。」

「でッ…でもどうすれば…。」


春風さんから赤ん坊を抱きあげ、濡れた布を取り、空間から取り出した沐浴セットとオムツ、衣服類を使って沐浴と着替えを終わらせる。

赤ん坊もスッキリしたようで、こちらを見ながらキャッキャと笑っている。


「ライムちゃん…凄いッ!」

「…ほんまに何でも出来るんや…。」

「ふふ。赤ちゃん、とっても嬉しそう。」

「ライムちゃん、私にも抱かせて〜。」


おんぷに赤ん坊を渡そうとした途端、騒動に気づいた魔女達が来てしまった。

魔女達は抱かれている赤ん坊を見て驚き、私達を城に連行した。

移動中、ずっと私に抱かれたままこちらを見つめてくる赤ん坊。

…本当に愛らしい…

私が指を動かしてあやすと、嬉しそうに笑ってくれる。

この子は私の力に怯えていない…

赤ん坊は、私の力に気づいきやすく、大抵は怖がるのだが…


「…ありがとう…」

「あっ…う〜。」


城についた途端、私は女王の命で別に案内され、春風さん達とは離れた。

何故か其処にはハートさんもいた。


「おや、ライムじゃないか。元気にしていたかい?」

「…はい。」


ハートさんは、私の腕の中で眠る赤ん坊に視線を落とす。

どうやら事情をゆきさんから聞いている様子…


「この子がウィッチークイーンローズから生まれた子供だね…だが、何故もう衣服をきている?」


理由を説明するとハートさんは、納得だと私の頭を撫でだした。


「ちょっとその子を見せてくれないか?」


ハートさんは起こさないように赤ん坊を抱き上げ、魔力や健康状態を見ていく。


「…間違いない…女王様、この子は途轍もない魔力を秘めています。本当に人間の子供に育てさせるおつもりですか?育て方を間違えると、人間界も魔女界も大変な事になりますよ。」

「…承知の上です。それに、ライムちゃんもついてくれています。」

「…確かに…ライムがいるのなら…ですが、私は人間自体に魔女の子を育てさせるのも反対です。」


そう。

実は、あの時ゆきさんから頼まれたのはこの事である。

春風さん達がこの赤ん坊のママになるように協力してほしいと…

何故、ゆきさんが春風さん達を選んだのかこの城の魔女達の反応から分かった。

城中から感じる…この子への嫌悪の視線…

ウィッチークイーンローズの子は、魔力が強過ぎる故、親に選ばれたくない者ばかりだという…

…ここでもか…

そんな視線の中でこの子を育てさせたくない…

生まれてきてよかったと…

胸を張って言える子になってほしい。

せめて…

この子だけにはッ…。


「…ハートさん。」

「なんだ?」

「…この子を…育てさせてください…この子には、たくさん愛を知ってほしい…」


私が知りえなかった様々な事を、見て感じて育ってほしい…

どうか…

私のように…

ならないで…


「…せめて…この子だけは…」


眠っている赤ん坊を撫でながら、いつのまにか頬を伝う涙…


「「ライム(ちゃん)…。」」


そんな私をそっとハートさんが赤ん坊ごと包みこんでくれた。


「…お前がそう言うのなら…但し、他の人間の子供達は健診の度に適性をチェックさせてもらう。」

「マジョハート…ありがとう。」

「…はい。…ありがとうございます。」


しばらくして私は、赤ん坊を抱いたまま、ゆきさん達と春風さん達が待っているであろう謁見の間に移動した。

申し訳なさそうに下を俯いている春風さん達。


「顔を挙げなさい。…まさか、こんなに早く貴方達と再開するとは思いませんでしたよ。」

「女王様、ごめんなさいッ!悪気はなくて!」

「魔女ガエルの村へ行こうとして近道しただけでッ…。」


…なんだか、此処にい辛い…

ゆきさんの頼みとはいえ、私が案内した訳だから…


「もう貴方達が魔女ガエルの村に行く必要はありません。…どれみちゃん。」

「ッ!…はい。」

「貴方には、今日からこの子のママになってもらわなければなりません。」

「…え?」

「魔女界では、誕生時に立ち会ったものが育ての母になり、一年間きちんと育てなければならない決まりがあるのです。」


…………………….。


「「「どれみちゃんがママッ!?」」」

「うっそォォォォッ!!そんなの無理っすよ!!私まだ9歳ですよッ!無理無理絶対無理マジ無理ッごめんなさ「大丈夫…あいこちゃん、はづきちゃん、おんぷちゃんの助けがあれば必ず育てることが出来ると信じています。」

「…でも…私たちだけじゃ無理だと思うんですけど…。」

「貴方達にはライムちゃんがいてくれます。…それに、貴方達に魔法を使う事を許可しましょう。但し、身分は魔女見習いのままです。」


女王は春風さん達に新しいタップを渡し、説明をしているところに赤ん坊が目を覚ました。

腕の中から私に手を伸ばしてくる姿が…

愛らしい…


「…起きたの?…今日からよろしくね。」

「だぅー!きゃっきゃっ!」


その子は、ずっと私を見て笑ってくれている。

もし…

私に子供がいたら…

こんな感覚だろうか…

無償の愛を捧げたくなる…

この子が愛おしい…

其処にリカ達もきて、この子を一緒に育てていいと許可が出て、春風さん達も大喜びである。

新しいマジカルステージの力と女王の力でMAHO堂も新しくフラワーガーデンに変わり、この子を育て易い環境になった。


「この木はライフウッドといい、赤ちゃんを育てるのに最高の環境を作ってくれます。…それと、魔女界の紋章のついたマントです。私に会いたい時はそのマントを付けてきなさい。」

「「「「はい!」」」」


リンさんが子育てに必要な物品を置き、女王達は魔女界に帰ろうとしたのだが、突然春風さんがぽっぷちゃんも魔女見習いに戻してほしいと頼みだした。

女王はそれを聞き入れ、タップを一つ春風さんに渡した。




ーその後ー


「ライムちゃん〜赤ちゃん、抱かせて❤」


春風さんが抱いた途端に、赤ん坊は泣き出し、再度お漏らししてしまった。


「…ちょうど夜だし…お風呂に入ろうか。」

「あい!」


赤ん坊は分かったかのように返事をしだす。


「…春風さんもどう?…洗濯もかねて。」

「え…いいの?」

「…うん。ね、リカ…」

「…仕方ないじゃろう。」

「ライムちゃん、私も一緒に入りたい❤」

「…いいよ。」

「やったーーー!❤」

「おんぷちゃん…やりよるな。」

「…ほんと。」
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