おジャ魔女どれみ

□第8話:親友
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ある日、突然その知らせはきた。

私達のクラスに転校生がくるらしい。

私同様この時期に転校生など珍しく、クラス中がどんな子だろうと浮足だっている。


「えー、授業を始める前に新しい友達を紹介するよ。入っておいで、瀬川。」


え…


「はい。」


返事がした方を見ると、開いた扉から見知った顔が…。


「…おんぷ?」


おんぷは教室に入った途端に、何かを探すようにキョロキョロしている。


「ッ!ライムちゃん!!」


私と目があった途端に、一目散に私目掛けて走り寄り、飛びつかれた。

危ないと想った私は、席から立ち、そんなおんぷを抱きとめる。


「…おんぷ…危ないよ。」

「ライムちゃんだ〜!❤」


おんぷは猫のようにゴロゴロとすり寄ってくるが…

聞いちゃいない…


「こら、瀬川。挨拶が先。前に来なさい。」


クラス中が驚きを隠せないでいる中、おんぷの突然の行動にも冷静に指導する関先生。

先生のあの様子から、おんぷに私のことを話したのは先生だと悟った。

それなら教室に入った途端、私を探していた行動も頷ける。


「は〜い!」


関先生の指示通り、おんぷは教卓まで歩き、黒板に自分の名前を書きだした。

…かと思ったのだが…


「…瀬川、ここは芸能界じゃないんだ。サインじゃなく、名前を書きな。」

「あ、そっか!いけない〜。」


テヘペロ!

…………。

はぁぁ…

自分を売り込むために計算された行動に、つい溜息がでた。

どうやら、あの子はここでも芸能人の瀬川おんぷとして過ごすようだ。

あれは、あの子なりのレッテルの張り方…

今までと同じように、心許せる友達など…作る気はないと…

そう言っているのだ…

そんなおんぷの行動の意味も知らずに、クラスメイト達は芸能人がきたと喜んでいる。

頬を赤く染め、女子のように高い声で喜んでいる男の子達は、どこか心ここにあらずといった感じである。

そんな男の子達を微笑みながら見ているおんぷの瞳の奥に、悲しい光をみる。

自己紹介も終わり、男の子達に見送られながら自分の席に移動するおんぷ。


「ライムちゃん〜、隣だよ!よろしくね!❤」


そう…

おんぷの席は、私の隣…


「…よろしく、おんぷ。」


挨拶を返した途端、おんぷは顔を真っ赤にして微笑みながら私に再度抱きついてきた。


「これから毎日、ライムちゃんに会えるんだね…嬉しい…❤」

「…はいはい。」


私もだよ…

そんなおんぷの頭を撫でていると、辺りから「キャーー!!❤」やら「可愛い〜!❤」やら「キーッ!羨ましいーー!!」やら色々な声が聞こえてきたが…

敢えて無視して、おんぷと一緒にそれぞれ自分の席についた。

席に戻ったのはいいが…


「あの、先生。私教科書をまだもらっていないので、今日一日ライムちゃんに見せてもらってもいいでしょうか?」

「あぁ、いいよ。悪いがリーシャ、お願い出来るか?」

「…はい。」

「やった!」


そう言っておんぷは、私の席に自分の席をくっつけだす。


「ごめんね、ライムちゃん。迷惑かけて…。」


先程までの元気は何処へやら…

いきなりシュンとしだすおんぷ。

態とだと分かっていても、構ってサインがつい可愛く見えてしまう…


「クス。気にしないで。」

「うん!❤」


おんぷの頭を撫でると忽ち元気になった。

なにか周りの視線を感じるが…

ま、いいだろう…






ーその頃のクラスー

「…なんか、自分達の世界に入ってるね…」

「キーッ!ライムちゃんにあんなにベタベタとッ!離れなさいよね!」

「私もまだしてないのにッ〜!!」

「…にしても…」

「「「「「「ライムちゃんとおんぷちゃん…絵になるわ〜❤❤」」」」」」」


それぞれが色んな反応をしていることなんて、ライム達は知る由もなし。


※ ※ ※


授業も終わり、休み時間になっても一切おんぷは離れようとしない。

そんな私達の周りにクラス中の子達が集まってきだし、その周囲には興味津々に中を覗いている全校中の生徒の姿が…

その中に春風さん達の姿もある。


「私、妹尾あいこ!よろしく〜。」

「…貴方があいちゃん?…じゃ、貴方がどれみちゃんで、貴方がはづきちゃんね?」

「どうして知ってるの?」

「あっ…えっと…、関先生から聞いたの。…MAHO堂っていうお店を手伝ってるんですってね〜。」


…関先生がそんなことを赤の他人に教えるはずがない。

では、何処からそのことを…

…それに…

近くにいて気づいたが…

この力…

春風さん達と同じ…

春風さん達が話してきたことをきっかけに、次々に質問されだすおんぷ。

周りにいる男の子達全員がおんぷにサインをねだっている。

おんぷはそんな子達一人一人に対応し、お友達になってくれるならと質問にも答え、サインも書いている。

…何故かその流れで、私のところにまでサインを求める子達が…


「ライムちゃんって、神々しくて中々近寄れない雰囲気があったけど、おんぷちゃんとならもらえるきがしたの〜❤」
「あの…サインをもらえますか?!」
「ファンなんですッ!何時も見てます!」


一気に私達のところに流れ込んでくる子達を私の親衛隊と名乗っている子達や春風さん達が間に入って、遠のけてくれた。


「ちょっと貴方達!何時も言っているでしょ!ライムちゃんのサインは私達ファンクラブを通してからにしなさいって!」
「それに、先生も言ってたでしょ?!学校では芸能人扱いしないって!」
「そうやで!気持ちは分かるけど、そんなに騒ぎ立てたらライムちゃんもおんぷちゃんも疲れるで!」


各方面から火花が散っている…

いつの間にかおんぷもサインを書くのをやめており、そんな闘いを呆れた目で見ている。

面倒くさくなった私は、その場で読書をすることにした。

自分でも薄情だとは思うが、こういうのは下手に入らない方がいい。

私はおんぷも巻き込まれないように、机の下で手を握り、本を一緒に読めるようにさりげなく、位置を変える。


「ライムちゃん、ありがとう❤」

「…どういたしまして。」


暫くしてその場に、関先生が授業を再開しようと来たが、未だに収まらないこの場に喝をいれられて皆解散しだした。

そんな学校での一日が終わった放課後のこと。


「ね、おんぷちゃんの家って何処?」

「美空公園の近くよ。」

「それやったらMAHO堂の近くやわ!今度、遊びに行ってもええ?」

「どうぞ。」

「え!?じゃ、今度の日曜日は?」

「あっ、ごめんね。今度の日曜日は映画のオーディションがあるの。」


そう淡々と笑顔で返しながら、帰る準備をしているおんぷのもとに、玉木さんが近寄りだす。


「オーディションですってェッ!?そのオーディションってもしかして【愛の囁き】って映画かしら〜?」

「そうよ。ライムちゃんが主人公の親友としてもう決まってるのよ。だから、絶対に受かりたいの❤」

「「「えェェェェェェ!!」」」

「ライムちゃんと出るのッ?!」

「いいな〜!」

「それは楽しみね!」

「そうなの!久々のライムちゃんとの共演なの❤」

「おーほっほっほ〜!ライムちゃんの親友役は、この私がなるんですのよ〜。何故ならその映画、うちのパパがスポンサーですもの。ヒロイン役は私に決まりでしょ!」

「そんな事「そんな事分からないわ。映画はスポンサーだけが作る訳じゃないのよ。監督さんやプロデューサーさんや大勢の人たちで作るものなの。だから、スポンサーだって思う通りにならないと思うわ。…玉木さんだったかしら?芸能界はそんなに甘くないのよ。」


おんぷの言葉に言い返す言葉がみつからず、悔しがりだす玉木さん。


「ふんッ!だったら勝手に受けるといいわ!ま、無理だと思うけど!!」


嫌味を言い捨てていく玉木さんを春風さん達も嫌な目で見ており、玉木などに負けるなとおんぷの応援をしている。

そして何故かその話の流れから、春風さん達はオーディションに応援に行くと言いだしていた。


「嬉しい!ありがとう〜。じゃ、ライムちゃん。一緒にお仕事行きましょう❤」


分け隔てなく、ファンに返すような笑顔で対応するおんぷ。


「あ、おんぷちゃん!お掃除しないと…。」

「えッ…あら〜、どうしよう〜…これからお仕事だし…。」


困ったふうな態度で誤魔化そうとしているおんぷを、先程結成された親衛隊が代わりにしておくと言いだしている。

おんぷは喜び、男の子達にお礼を言って私の腕に自分の腕を絡めてくる。


「みんな、私とライムちゃんが出る映画。楽しみにしていてね!」

「「「「「「「「は〜い!❤」」」」」」」」


私は、そのままおんぷに連れられて仕事に行く事となったが…。

…全く…

この子は…

そしてオーディション当日になり、私は審査員としてその場にいた。

なんでも私には、共に出る親友役の子を選んでほしいと依頼された。

だが、何故かそこに応援すると言っていたはずの春風さんが舞台に立っている。

…なにかの手違いで、オーディションメンバーに紛れこんだのだろうが…

案外発想が面白く、最終選考にまで残っていた。

最終選考には、おんぷに散々言われて行動に移した玉木さんもいる。

最終選考の課題は、各々が好きな衣装で得意な演技をするというもの。

春風さんはかぐや姫、玉木さんはロミオとジュリエットを演じ、それぞれが頑張る中…

おんぷの番になるが…

あれは…

…やはり…そうか…

おんぷは、見習い魔女の格好で出てきたのだ。

初めてみるその見慣れた衣装に春風さん達は、驚愕しだす。

おんぷも見習い魔女だったのかと…

次の瞬間、その疑問が確信に変わる。

おんぷは審査員全員の前で呪文を唱え、堂々と魔法をかけたのだ。

自分が選ばれるようにと…

だが、ことはその瞬間に起こる。

おんぷが魔法をかけた途端に、何か黒い靄が審査員達から出だし、そのままおんぷのブレスレットに吸収されていくのが見えたのだ。

あれは…一体…

あの靄…

何か悪い兆しのものに違いない…

あの靄を吸収したブレスレット…

あれもおそらく、魔法道具なのだろうが…

あんなものを持っていておんぷは大丈夫だろうか…

しばらく様子をみるしかないか…

おんぷの魔法で心変わりした審査員達は皆おんぷに投票した。

だが私だけは、春風さんに投票をいれた。

見習い魔女の魔法が私に効くはずがない…

それに…

投票数でおんぷが主役を勝ちとり、おんぷはあまりの嬉しさにオーディション後私のいる控え室に駆け込んできた。


「受かったよ!ライムちゃん!!」

「…ね、おんぷ…魔法の力で受かった役が…そんなに嬉しい?」

「えッ…。」


おんぷが見習い魔女であることはこの際置いておく。

それに再開してから気づいてはいたから、敢えて驚きもしない…

今は、この子の行いを問いただす必要がある。

突然、魔法について問われたおんぷは色んな疑問で返答を遅らせているが、特に誤魔化しもせずに案外素直にへんとうした。


「やっぱり…知ってたんだ…。私が見習い魔女だって。…いつから?」

「…学校で再開した時から…」

「…そっか。やっぱりライムちゃんは凄いや。マジョルカが言う通りだね。」


マジョルカ…

そうか…

おんぷはあの事件の後、マジョルカから力をもらったのか。

だから春風さん達のことも…

それより今は…


「…おんぷ。」


話を逸らそうとしたおんぷにややトーンを低くして言う。


「ッ!…だって…ライムちゃんとどうしても一緒にお仕事したかったから…。」


…はぁぁ…


「おんぷの気持ちは嬉しい…だけど、魔法で受かってもそれは貴方の実力じゃない…そんなことをしたっておんぷの足枷にしかならない…おんぷが頑張っていることは私が一番知ってる…大女優に、なるんでしょ?」


おんぷの夢は素晴らしい。

決して私には持てないものを持っているから…

なのに、こんなところで楽することは自分で自分の努力を否定しているようなもの…

今までの努力を否定するのだけは、してほしくない…

挫折したって…立ち止まったっていいから…

夢に向かって真っ直ぐ歩いてほしい…

腐るなと願いを込めて、私はおんぷの頭を撫でる。

おんぷは下を俯き、静かに涙を流しだした。


「…うん…ごめ…ごめんなさいッ…。」


どうやら反省してくれたようだ。


「…大丈夫。おんぷは、きっといい女優になれる…。」

「…うん。もう絶対にしない。」


あんな禍々しいものを背負ってはいけない…。

おんぷは、そう約束してくれた。

店に戻ってからも、私はあの靄がずっと気になっており、リカに事情を話して聞いてみた。

状況から、その黒い靄は禁止されている魔法を使ったことと何か関わりがあるのではと推測できた。

魔女界では、治癒の魔法や復活の魔法と同じように人の心を操る魔法は禁止されているらしい。

おそらく、おんぷはそれを知った上で…。

黒い靄を吸収したアイテム。

あれが呪いを引き受けたのだろうが、そんな物が長く持つはずがない。

もしアイテムで事足りるのなら、禁忌の魔法とはされないであろう。

いつかは壊れ、その反動がおんぷに降りかかるだろう。

それは阻止したいが、果たして他人が止めてあの子のためになるのだろうか…

危険ではあるが、これはあの子自身が気づかなくては意味をなさない…

もうしばらく、様子を見よう…

黒い靄を吸収したアイテム。

あれが呪いを引き受けたのだろうが、そんな物が長く持つはずがない。

もしアイテムで事足りるのなら、禁忌の魔法とはされないであろう。

いつかは壊れ、その反動がおんぷに降りかかるだろう。

それは阻止したいが、果たして他人が止めてあの子のためになるのだろうか…

危険ではあるが、これはあの子自身が気づかなくては意味をなさない…

もうしばらく、様子を見よう…
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