銀魂

□第3章:久しぶりだな、嬢ちゃん
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翌日、万事屋にエリザベスが乗り込んできた。

乗り込んできたはいいが、ソファーに座ったまま要件を一向に言おうとしない。


「・・・あの〜、今日は何の用で?」

「・・・・・。」


銀時が意を決して聞くも無言。

この状況に耐えきれなかった銀時達は、万事屋メンバーでコソコソと話だす。


「なんなんだよ、この人!こえェよ!黙ったままなんだけど・・・。怒ってんの?何か怒ってんの?何か俺悪いことしたァァ?!」

「怒ってんですか、あれ?笑ってんじゃないんですか?」

「新八ぃ、お前のお茶が気に食わなかったネ!お客様はお茶派ではなく、コーヒー派だったアル。お茶汲みだったらその辺見極めろヨ!だからお前は新一じゃなくて新八アルネ!何だよ、ぱちって!」

「んなもん、ぱっと見で分かる訳ないだろォォォォ!!」

「俺直ぐピンときたぞ?見てみろ!お客様、口がコーヒー豆みたいだろうが?観察力が足りねぇんだよ!」


新八はコーヒーを注ぎ直し、差し出すもそれでもエリザベスは動かないし、無言状態。


「・・・・。」

「オイ!全然変わらねぇじゃないか?!」


状況にイラついた銀時は、コーヒーだと初めに言った神楽を殴った。


「銀さんだってコーヒーだって言ったじゃないですか?!」

「言ってませ〜んン!どら焼き横からのってるっていったんですぅぅぅ〜!ったく、本当いい加減にしてくんない?何で自分ちでこんな息苦しい思いをしなきゃいけないんだよ!!あの目見てたら吸い込まれそうなんだけどぉぉ!!大体、俺今日はルカと遊びに行く予定があったんだけど!!」


微妙な空気が漂う中、電話が鳴り響く。


「うっせェぞ!!隣ではまだルカが寝てるんだぞォォ!!」


電話に切れる銀時。


「あんたが一番うるさいわァァァ!!」


新八の突っ込みもむなしく、銀時は電話の内容に集中している。

電話の内容は依頼であった様子。

電話をきった銀時は、寝ているルカの部屋へと足を運び、起こさないようにそっと頭を撫でる。


「すまねぇな。今日は遊べそうにないわ。また今度な。」


それを見ていた新八達は、どうしたのかと問う。


「ちょっくら、出かけてくるわ。」

「え・・・。何処にですか?」

「仕事〜。ルカの面倒よろしくな〜。あとそこの客も。」

「嘘つけェェェ!!自分だけ逃げるつもりだろォォォォ!!」


だが、もう銀時は出て行ってしまう。

後に事情をエリザベスから新八達が聞くことになった。

エリザベスは桂がいなくなり、その現場には血染めの桂愛用の物が落ちていたと事情を話した。

新八達は、兎に角現場に行って情報を得ようと提案し、出かける準備をしだす。

その時に、寝ていたルカが起きてきて、新八のもとにきた。


「あ、起きたんだね。おはようルカちゃん。」

「おはよう〜・・・・・。パパは?」

「・・・銀さんはね、急に仕事が入ったって行っちゃったんだよ。遊べなくてごめんねって言ってたよ。」


新八は何処かバツが悪そうに答える。


「うん。ルカ、まってる!」


そう満面の笑みでいうルカ。

この歳の子がこんなに聞き分けがいいものだろうか?

あんなに楽しみにしていたのに、ドタキャンされて怒りもせず、泣きもせず、仕事について理解し、ただ健気に待つという子を可愛く思わずなんと思う!

感動のあまり、そんなルカを泣きながら新八が抱きしめた。


「なんていい子なんだァァァァァ!!」

「しんにぃ、いたい?よしよし!」


ルカは新八が痛くて泣いていると思ったのか、頭を撫で撫でしだした。


「ホワチョォォォォ!!」 ドゲシッ!


そんな仲睦まじい二人が気に食わない神楽は新八を蹴り、ルカと離す。


「痛いじゃないかァァ!!」

「新八ばかりずるいネ!私もルカを猫可愛がりしたいアル!」


神楽はどさくさに紛れてルカを抱きしめ、頭を撫でている。


「ルカ、おはようネ!」

「おはよう!かぐねぇ!」

「う〜ん!これね!ルカのこれを聞かないと始まらないアル!」


満足そうな笑みでルカを抱きしめる神楽。


「ちょっと!僕を除け者にして和まないでくれる!それより、今は桂さんのことだよ。」

「でも、ルカはどうするアルか?一人でお留守番も可愛そうヨ。」

「そうだね・・・。じゃ、お登勢さんに預けよう!お登勢さんもルカちゃんなら何時でも預かっていいって言ってたしね!」


そうしてルカはお登勢に預けられ、新八達は桂捜索にエリザベスと向かう。

捜索をしていくうちに、桂を切ったのは岡田似蔵だという事が分かり、似蔵を追っていくうちに高杉晋助の元にそれぞれがそれぞれの経緯で辿りついた。

真っ先に乗り込んだ神楽が人質に取られたり、それを新八が助けたりしていくうちに二人共ピンチになってしまい、それをエリザベスが守った。

だが、その途端にエリザベスは後ろに現れた高杉に切られてしまう。


「エリザベスゥゥゥゥ!!」

「オイオイ。此処はいつの間に仮装パーティー場になったんだァ?餓鬼が来ていい場所じゃ「餓鬼じゃない。」


切られた筈のエリザベスの中から人の声が聞こえ、目を見開いている高杉。

そして気づいた。


"この匂い!"


それが桂だったと。

桂は高杉が後ろに飛び退く前に渾身の一撃を切り出す。

腹部を切られた高杉はそのまま倒れてしまった。


「桂だ。」


生きていた桂の姿を見て新八と神楽は驚愕している。


「この世に未練があったのでな。蘇ったのさ。嘗ての仲間に切られたとあっては、死んでも死にきれんというもの。なぁ?高杉。お前もそうだろ?」


高杉は直ぐに起き、桂と対面する。


「クククク。仲間ねェ?まだそう思ってくれていたとは、ありがた迷惑な話だァ。」


切られた筈の高杉の腹部には、何か書物のような物が見える。

どうやら書物がガードになって、高杉の身を守ってくれた様子。


「・・・まだそんな物を持っていたか・・。お互い馬鹿らしい。」


それを見て桂も懐ろから同じ物を出した。


「お前もそのおかげで、紅桜から守られたって訳かい?思い出は大切にするもんだねェ。」

「いや、貴様の無能な部下のおかげさ。余程興奮していたらしい。ろくに確認もせず、髪だけ刈り取って去っていったわ。ま、理由は他にもあるがな。」

「・・・・他ねェ・・・。何にしても、逃げ惑うだけじゃなく、死んだふりも上手くなったらしい。で?態々復讐に来た訳かい?奴を差し向けたのは俺だと?」

「あれが貴様の差し金だろうが、奴の独断だろうが関係ない。だが、お前のやろうとしていること、黙って見過ごす訳にもいくまい。」


その途端に船が爆発したのだ。


「「「なッ!」」」

「悪いが貴様の野望、海に消えてもらおう。」


船に乗せられていた紅桜は全て桂によって破壊されたのだ。

その後、死んだふりをしていた桂に怒りだった新八と神楽は、腹いせに桂に攻撃を加え出した。

桂は慌てて事情を告げ、隠れる必要があった事を話す。

だが。


「だから「何でエリザベスなんだァァァァァ!!」」


え、そこ?

兎に角、まだ怒りが収まらない二人は桂の足をもち、棍棒のように振り回して敵を倒す武器にしている。

そこにエリザベス率いる桂一派の攘夷派達が船ごと乱入してきた。

仲間の助けもありながら、桂は高杉の元に急ぐ。

立ちふさがる高杉一派に神楽と新八が相手をし、桂は後ろ髪を引っ張られながらも先に進んだ。

一方、似蔵の元に銀時が依頼という名のお礼参りに来ていた。

銀時のお礼参りを受け、似蔵も紅桜で攻撃を仕掛けていく。

紅桜は戦った相手の攻撃や癖などあらゆるデータをインプットするカラクリ。

銀時の戦い方などを覚え、攻撃をくりだすため、銀時が降りなるはずなのだが、銀時はどんどん強くなっていく。

形勢は逆転し、銀時が似蔵を押していく。

そんな様子を遠くから高杉と桂は見ていた。


「もはや、人の動きではないな。紅桜の伝達機能についていけず、体が悲鳴をあげている。あの男、死ぬぞ。貴様は知っていたはずだ。紅桜を使えばどのようなことになるか。仲間だろ!何とも思わんのか?!」

「・・ありゃァ、あいつが自ら望んでやったことだァ。あれで死んだとしても本望だろォ?」


そう、似蔵は高杉を守るための刀になる事を望んでいたのだ。

自分の体が朽ち果てても。

見えなくなった今でも光だけが見え、目障りな光をただ消そうとしている。

どんどん紅桜に侵食され、意識も取り込まれて自我もなくなってしまった似蔵。

自分以外の者に攻撃を加えていく。

銀時もそれに捕まり、皆が助け出そうと動いている。

刀鍛冶の娘、銀時の依頼人が似蔵に切られそうになった時、その兄である紅桜の生みの親鉄也が助けたのだ。


「うわあああああぁぁぁぁ!!兄じゃァァァァァ!!しっかり!兄じゃァァ!」

「・・・ッフ。・・・そういうことか・・・。剣以外の余計な物は捨ててきたつもりだった・・・。剣を打つためだけに生きるつもりだった・・・。だが、最後の最後で・・・お前だけは・・・捨てられなんだか・・・。こんな生半可な覚悟で・・・究極の剣など打てるわけなかった・・・。」

「余計なもんなんかじゃねぇよ!!」


全身を傷つけた銀時が必死に立ち上がる。


「余計なもんなんてあるかよ・・・。全てを捧げて剣を作るためだけに生きる?それが職人だ?たいそなこと抜かしてんじゃないよ・・・。ただ面倒くさいだけじゃないか?!テメぇは!色んなもん背負って、生きる度胸もない奴が職人だなんだかっこつけんじゃねェェ!!見とけ!テメェがいう、余計なもんがどれだけの力を持っているか!テメェの妹が魂打ち込んで打ったこいつの切れ味、しかとその目ん玉に焼き付けな!!」


それを聞いた鉄也は初めて気づいた。

己が捨ててしまったものの偉大さに。

自分の事を思ってくれていた大事な家族の存在を。

初めて気づいたのだ。


「・・・守るための・・剣か・・・。お前らしいな・・・鉄子・・・。どうやら私は・・・まだ打ち方が足りなかったらしい・・。鉄子・・いい鍛冶屋に・・・なれ・・。」


そう言って力尽きた鉄也は、息を引き取った。

似蔵も銀時に負け、倒れてそのまま息を引き取った。

その後、そこに宇宙海賊春雨が来て、弱り切った銀時と桂を襲いだす。

何故此処に春雨がいるかというと、高杉が二人の首を売ったのだ。

春雨の力を借りるための条件として。

もう立てないでいる銀時を守るかのように神楽と新八が道を開き、桂は自力で春雨を倒しながら、仲間がいる場所へと向かっていく。

皆が甲板に行き、戦闘を繰り広げる中、中に取り残されている骸となった鉄也と似蔵。

その二人に近づく影が一つ。

その者はそれぞれに歩みより、頭に触れていく。

その途端、触れた部分から骸と化した体が光を放ち、鼓動を打ち始めていくではないか。

血の気もなく、息もしていなかった体に生気が宿る瞬間であった。

似蔵が持っていた紅桜は消え、侵食されていた体も元に戻り、鉄也も切られた筈の傷がもう残っていない。

生気を取り戻した二人は意識も戻り、少しづつ目を覚ましていく。

そんな二人にその者が満面の笑みで。


「おじちゃん、あそぼ!」


と告げた。

もう気づいているだろうが、その者こそお登勢に預けられている筈のルカであった。


「・・・此処は地獄か・・・。こんな天使がいるなら・・・地獄も案外悪くねぇな・・・。」

「・・全くだ・・・。」


まだ生き返った事に気づいていない二人だが、ルカに無理矢理袖を引っ張られて起きざるをえなくなってしまう。

漸く辺りを見渡して此処が地獄でも天国でもなく、先程までいた船の上だということに気付く。

そして自分達の傷もない事に気づいた。


「・・・これは・・・一体どうなってやがる?」

「私らは死んだはずだ・・・。なのに・・・。」


困惑する二人だが、直ぐに何が起こったのか理解できた。

それはルカが似蔵に近寄って「目がみえないとあそべないよ?」と言って、目に手を当てた途端に目が見えるようになったからである。

全てこの子がしたことなのだと悟った。

だが、二人は驚きはするもそれ以上の反応はしなかった。

何故なら。


「・・・嬢ちゃんは、不思議だな・・・。目が見えない俺に嬢ちゃんの光は神々しく見えていたが、煩わしくは思えなかった・・・。此処んとこがよ・・・あったかくなるんだよ・・・。こんな感覚になったのなんて、何時ぶりだろうねェ。」


色彩が戻った似蔵は、とても優しい顔でルカを撫でだした。

二人とも助けてくれたルカに対して、本能が拒否出来ないでいるからだ。


「ね〜!」


撫でられながら、似蔵の真似をするルカ。

そんな二人を見守る鉄也の手と似蔵の手をとって、ルカは告げる。


「あそぼ!」


ルカの笑顔にすっかり毒気を抜かれてしまった二人は、先程まで繰り広げていた戦闘もどうでもよくなってしまい、ルカの笑顔につられるかのように心からの笑みを浮かべていた。


「「あぁ。」」


その瞬間、ルカと鉄也、似蔵はその場から姿を消した。
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