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□第二章:戦災孤児と神子
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そんな日常を送っていたある日の事。



ー社にてー


「ラピス様〜。好き〜!」

「私もじゃよ、夔龍(キリュウ)」


機から見たその光景は、まるで子が親に甘える姿そのもの。

夔龍はラピスに横から抱きつき、それに応えるように頭を撫で返す。

この夔龍というもの、姿は幼子で愛らしい出で立ちをしているが、龍神の一人でラピスより苑国の土地神として役目を与えられている立派な神である。

各土地神は、ラピスが四神の社の空間を造った時に出来た次元に社を創り、そこに住んでいる。

夔龍は龍神といってもまだ生まれたてで、神気が乱れやすい。

こうやって度々訪れては、神気を調整するのもラピスの仕事の一つ。

調整といってもただ側にいるだけなのだが、それだけで神々の心は安定し、神気も高まる。

神々はラピスに皆感謝し、その中でも夔龍は特に慕っている様子。

皆社の縁側に座り、変化した黒龍を膝に乗せて日向ぼっこをしていたところに抱きついてきた夔龍。

その横から人間の姿に変化した饕餮が、夔竜を離そうとしている。



「お前はラピスにひっつき過ぎだ!我もたまには、ラピスと二人で過ごしたいのに、お前ばかり不公平ではないか!」

「えー。じゃ、黒龍様はどうなるの〜?ずっと一緒にいるじゃん。黒龍様〜、たまにはラピス様の膝の上、僕に譲ってよー。」

「・・・・」


黒龍はガン無視。

譲る気なんて毛頭ないという、黒龍流の無言の態度の現れのようだ。



「黒龍様は別だ!ああやっておられるが、ラピスの事を思い、常に守っておらる。お前とは、一緒にいる意味が違うのだ。お前は甘えたいだけだろう。それなら我も甘えたい!」


何故ここまで饕餮が黒龍を敬っているかというと、黒龍は闇を司る神であり、饕餮達妖怪にとっては長と変わらない存在なのだ。

黒龍は陰の象徴でもあり、全妖怪達に尊敬されている。

よってラピスの次に慕われている訳だが。

ただ譲りたくないだけの黒龍は、誰にも分からないように勝ち誇ったように顔をニヤつかせていたのは言うまでもない。




「だってー。ラピス様あんまり来れないし、今のうちに甘えとかないと!僕、ラピス様が大好きだもん!」

「我だって愛しておる!」




妖怪達の中でも、饕餮のラピスに対する愛情は格が違う。

皆もそれが分かっているため、あっさりと告げる告白も敢えて流している窮奇達であった。

それに普段は冷静沈着な饕餮が、こうやって夔竜の前でだけは本心をぶつけている。

ぶつかっている理由はラピスには分かっていないが、何だかそんな二人の光景が微笑ましいようだ。

ラピスはとても愛おしそうに何時も二人を見ている。

だが、そんな中でもラピスの表情は重く、時より見せる悲しみに何時も側にいる黒龍だけが気づくのだ。

今もそんなラピスの様子に黒龍が気付いた。


「ラピス様、どうされました?」

「…また…戦争が起こっておる…。尊い命がまた失われていく…。戦争とはそんな物だと分かってはいるが…辛いのぉ…。」


ラピスには、今現在失われている命の叫びが聞こえており、それを聞く度に辛い思いになるのだ。

助けたいと思っても人が起こす戦争に、公には口出し出来ない。

何故なら戦争とは、人がより良い世界を作り上げるためには歴史上必要なものだからだ。

人は戦争によって得られるものがあり、それを糧として成長し、同じことを繰り返さないようにと学んでいく。

それはラピスも重々と理解しているからこそ、手が出せない。

我が子の尊い命が失われるのは、何時までも慣れないものだ。



「…今は…少しでも救える命を救いたい…。」



黒龍は、そんなラピスを黙って見守るしか出来なかった。

今の自分に、全てを悟った上で悲しんでいるラピスに何も言えない。



"かける言葉が…見つからない…"



黒龍は、少しでもラピスの悲しみを分かち合いたくて、ラピスが流す涙を舐める事しか出来なかった。



「ありがとうのぉ、黒龍…。…私にはお主らがおる故、大丈夫じゃ。」


ラピスにそんな黒龍の気持ちが伝わり、微笑みながら頭を撫でた。



「さて、みな出掛けるぞ。夔龍、また来る。」



ラピスが次の場所に向かおうと立ち上がるも、夔竜は決して止めない。

ラピスの仕事を理解しており、それは全て我々の為にされているからと知っているのだ。

ラピスと離れるのは寂しいが、迷惑もかけたくないため、笑って何時も見送る。



「うん!また来てね!」



そんな夔竜の心情に気付いているラピスは、また来ると必ず伝え、近いうちにまた立ち寄るのだ。

別れを告げたラピスは、その空間から出た。

空間を出た途端に先程とは服装が変わり、頭に布が巻かれ、猫の仮面がつけられ、決して素顔が見れない姿となった。

本人曰く、この方が動きやすいからとのこと。

猫の仮面は、ラピスの趣味だとか。

そうして辿り着いた場所は、苑の戦場跡地であった。

まだ真新しいその地には、多くの骸とまだ生きているもの達がいたのだ。

生きているとは言え、全身に致命傷を追い、虫の息であるがラピスはその者達の前まで歩き、一人一人に問うていく。



「生きたいか?」

「…い…いき…たいッ…むすめが…かぞくが…まって…いるんだ…。」

「では、取引をしようぞ。お主を助ける変わりに、お主の大切なものを一つ貰う。」

「…たすかるの…ならなんで…もいい…。」

「ならば…」




其々に似合った条件を伝え、皆が驚いた顔でそれを了承した。

先に浄化の舞を踊ると、この地で戦死した霊魂達がラピスに頼って、願いを告げにきた。



‘どうか骸だけでも家族のもとに’ と。



それに了承し、霊魂を死者の国に送る。

また契約した者達は、浄化の舞で傷が癒え、みるみるうちに元気を取り戻していく。

奇跡だなんだと言って、生きていられる喜びを互いに実感しあっている中、ラピスが生存者と骸を全て家族の元に転送した。

骸に関しては、一度別空間に送り、共に家族のもとに赴き、事情を一人一人に告げていく。

いきなり骸だけ現れても怖いだろう。

初めは受け取った家族も驚くが、皆泣き崩れながらもラピスに感謝し、全てを受け入れていった。


「ここまで連れ帰ってくださり、本当にありがとうございました」と。
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