兼平ちゃん短編集
□本音が聞きたい
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兼重は自室に戻り、先程山南にもらった物を見ていた。
丁度いいものがある、と言われ渡されたのは、小瓶に半分ほど入った水色の液体だった。
「これを一滴水に混ぜて飲ませればいいって言ってたけど…」
果たしてこの薬は安全なのだろうか。
兼重は少し不安だったが、その薬の効果は気になった。
(…人の本音を聞ける薬、か)
平助の本音は、誰よりも知りたいところ。
直接聞いても、いつも適当にはぐらかされてしまう。
好きか嫌いか、兼重はそれだけが知りたかった。
それがもし最悪のものだとしても、兼重は平助の気持ちとして受け止めたいとも思っていた。
その覚悟があるからこそ、山南にこれをもらったのであった。
期待と不安が入り交じった心持ちでしばらく小瓶を眺めていたが、意を決したのか、兼重は水を汲みに部屋を出た。
それからしばらくして、巡察から平助達が帰ってきた。
「ただいまー、あー…疲れた」
その声を聞き、兼重は急いで玄関まで出迎えた。
「お、おかえり平助!」
「ああ」
素っ気ない返事に、兼重はこれから行うことに少し不安になった。
しかし、ここで臆して実行しない訳にはいかない。
「あ、のさ、平助、喉乾いてない?」
「ん、あー…少し」
その返答に、兼重はしめたと思いながら、部屋に用意してあった水を持ってきた。
「これ飲んで、冷えてるから」
「…おう」
気が利く兼重はいつも平助の行動を先読みして動くことが多々あった。
平助のために何かしたい、という兼重の想いが強かったからだ。
そのお陰で、今回は平助に何も疑われることなく水を渡すことに成功した。
あとは平助が薬入りの水を飲みさえすれば──。
平助が湯呑みに口を付けると、兼重は鼓動が早まった。
ここに来て本当にこれで良かったのか、などと考えてしまうほど、兼重は気が気ではなかった。
そして──。
「っあー、美味かった!」
平助は湯呑みの水を全て飲み干した。
一滴も残っていない湯呑みを兼重に渡し、平助は自室に戻ろうとした。
それを兼重は慌てて腕を掴み、引き止める。
「…何だよ」
一刻も早く休みたいと言わんばかりに、平助は不機嫌そうに尋ねる。
兼重はというと、ひき止めたはいいが咄嗟に何を聞けばいいか分からず口ごもってしまった。
「…何もないならオレ行くけど」
「あ、えっと…」
ずっと腕を掴んでいるのも申し訳ないと思った兼重は、名残惜しそうに手を離した。
そのまま平助は兼重に背を向け歩き出した。
結局あの薬の効果はないのか、と兼重が諦めかけたとき、不意に胸の辺りに重みを感じた。