兼平ちゃん短編集

□飴玉の味
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ある日の放課後。


2年1組の藤堂平助は隣のクラスの幼馴染みで恋人の兼重と帰るため、彼を迎えに来た。



「おーい兼重ー」



日直の仕事があって時間が過ぎたせいか、その教室には兼重一人だけだった。



「あ、平助、終わったの?」


「おう、待たせたな」



平助は教室に入っていく。


平助の部活がない放課後、二人きりの教室で長話するのは日課だった。


二人は同じ家に住んでいるものの、座って話し出すとなかなか腰が上がらない。



「今日の晩ごはん、なに?」


「そうだなー何がいいかな。平助、食べたいものある?」


「んー…」



他愛もない話。


今日あったことや二人の好きなものの話で盛り上がる。


すると兼重は不意に鞄から1つの包みを取り出す。


見るとそれは飴のようだった。


ぱくっと口に放り込むのを見ていると、平助も欲しくなる。



「あ、ずりぃーお前だけ。オレにもくれよ」


「あ…、ごめん、これ最後の一個だった」



申し訳なさそうに笑う兼重に「まあそれならいいけどさ」と少し不貞腐れたような顔で答える平助。



「まあまあ、一緒に食べよう」


「…は?」



兼重の言った意味がわからず、平助はぽかんと口を開ける。


兼重は立ち上がると、そのまま唇を重ねた。



「?!」


「ん……、」



兼重の舌が平助の唇の間を割って入ってくる。


ねっとりとした感覚に、身体が火照った。



「んん…っ、ふ…、ンッ…」



くちゅ、ちゅっ…と音を立てながら、口の中を舌が這いずる。


ころん、と何かが口の中に転がり込む。



「ん…っ……、あ…、飴…?」


「………あまい?」



少し離れ、兼重が低く囁く。


まるで抱かれている時のような声に、平助は顔が赤くなった。


すると兼重は平助の手を引き、自分の膝の上に跨がらせる。



「ちょ…、兼重…」


「大丈夫、この時間ここを通る人なんていないから」



そういうとまた兼重はキスをする。


舌と舌とが絡まり、甘い香りが鼻をついた。



(いちごだ…)



平助はぼうっとし始めた頭で考えた。


一秒も離さないという風に、兼重は平助の口内を犯す。


両手は逃げられないよう、平助の腰に回っていた。



「んっ…ふ、ぁ…んぅ…っ」


「……っん」



平助の口の中にあった飴は再び兼重の口の中に戻る。


しかしすぐに平助の舌の上に転がり、かと思えば兼重の口の中に入る。


飴は二人の舌の上を交互に転がり、小さくなっていく。



「ふ…っ、んはぁ……んッ」



塞がれた唇の隙間から漏れる平助の喘ぎにも似た吐息に、兼重の手に力が籠るのが分かった。



(一緒に食べる、ってこういうことかよ…)



平助は蕩けそうな意識の中でようやく分かった。


しかし嫌悪感どころか、やめる気にもなれなかった。


舌と舌が絡まる度、飴が二人の間を行き交う度、平助は身体が熱くなっていく。


いつの間にか、平助の手は逃がさないとするように兼重の首に回っていた。


自ら身体をくっつけ、舌を絡ませ、兼重を求めるような姿に、我慢ができるはずもない。


二人がキスを交わし始めてどのくらい経ったのか。


飴はすっかり姿を消したというのに、二人はまだ満足出来ていない様子で絡ませ続けた。



「ん…っ、んぅ…ッ、かね…しげ…っ」


「……、ん………っはぁ……」



兼重の名を呼ぶと、平助は自らまた舌を絡めた。


少し離れると二人の間を銀の糸が伝う。


お互い荒い呼吸を繰り返しながら見つめ合い、もう一度軽く唇を啄んだ。



「…平助…、帰ろうか」


「え…」



平助は少し驚いたような、残念そうな声を出す。


兼重は何事もなかったかのように微笑んだ。



「飴、美味しかった?」



そう聞くと平助はみるみる顔を赤くする。


耐えられなくなり目線を逸らしながらも平助は「うん」と小さく頷いた。


くすっと兼重は笑うと平助を抱き寄せ、今度は耳元で囁く。



「…帰ったら続き、しようか」



この問いかけに、平助がなんと答えたかは言うまでもないだろう。











*完*

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