兼平ちゃん短編集

□郭の想い人
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ここの遊郭には、それはそれは美しい男娼がいると遥か遠くの地まで噂が広がっていた。


成人しているというのに、幼さとあどけなさが残る顔立ち。


女のように華奢で小柄な体格。


滑らかで見惚れるほどの白い肌。


黙って座っていれば、本当に女ではないかと疑うほどの麗しさ。


この時代には珍しい栗色の髪と翡翠の瞳。


見つめられては浮かんだ言葉も消えてしまうようなその瞳を伏せれば際立つ長い睫毛。


柔らかで艶のある髪は愛でる者の心を満たし、透き通るような瞳から溢れる雫は朝露のように清らかだった。


その男の名は平助と言った。


何人もの馴染みの客がおり、もう何度も枕を共にした。


中には平助の噂を聞き、顔を見るだけでもと遠くからやって来る者もいた。


平助はこの辺りの花街でも一番と言ってもいいほど人気の男娼だった。


毎日誰かを連れて部屋にやって来るのが当たり前だった。


その日も、平助は馴染みの男に抱かれていた。



「ああッ…あっ……はあ…んッ…」



聞き慣れた自分の声。


演技だというのに、嘘だというのに、客はそんなことは気にしない。



「はぁっ…はぁっ…ああ、気持ちいいよ平助くん…っ」


「ああんッ…お、れも…ッ…はっ、あっ」



涙を浮かべてみれば、客は興奮し自分の中に入れたそれを大きくした。


飛んでくる汗が気持ち悪い。



「ん、やぁ…ッ、あ…、あッ」


「はぁ、はぁ、出すよ、君の中で…ッ」


「あんんっ…、んッ、あッ、あぁ…ッ」



男が平助の中で白濁を吐き出す。


平助もその衝撃で頂点に達する。


ねっとりとした感覚に気分が悪くなる。


荒い呼吸をしながら男を見上げる。


潤んだ瞳で見つめられ、男は顔を近付けた。


広い顔に汗を滲ませ、汗の臭いが鼻を付く。


男は平助に口付けようと細い目を閉じる。


すると平助は慌てて顔を背けた。



「平助くん…?」



平助は客の機嫌を損ねないように微笑みながら



「これはだめ、オレを買ってくれる人だけにするんだ」



と特別だと言わんばかりに人差し指で唇をなぞった。


その仕草も表情も色っぽく、客はデレデレとしながら大人しく離れた。


その平助の行動に隠された本当の意味など知るはずもなく。


その後は男に抱き締められながら1つの布団に入った。


そして平助はいつも考えることがある。


客に酒を注いでるときも、抱かれているときも、静かに眠りにつくときも。



(………どうしてっかな、兼重)
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