兼平ちゃん短編集
□両片想い 兼重side
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入学式。
その日は立っているだけで騒がれた。
「見てあの人、超カッコよくない?」
「え、めっちゃイケメンじゃん!」
「どこのクラスだろ?」
女子たちの黄色い声がその本人──兼重にも届く。
兼重はいわゆる、美男子だ。
どこに行っても目立つこの容姿は、兼重にとっては少々厄介だった。
自分をカッコいいと意識したことはないが、周りが言うからそうなんだろうくらいに思っていた。
ただ、好意を持たれることに悪い気はしない。
中学でも散々告白を受けてきた。
しかし兼重は1度も付き合ったことはない。
初恋もまだだったのだ。
そもそも恋愛にいうほど興味がない。
誰かを好きになるなんて、一生ないのかもしれないと思っていた。
好きになれる人が今までいなかったのである。
しかしその日、兼重の運命を大きく変える出会いが待っていた──。
式も終わって自由な時間ができた。
他所のクラスの生徒が、3組の前の廊下を塞ぐ。
皆兼重を見に来たのだ。
全く噂というものはろくでもないな、と兼重は思った。
自分が学年一カッコいいというのは言い過ぎだと思う。
そんな風に容姿を褒められるのは、何時まで経っても慣れなかった。
兼重は教室にいるのも居心地が悪くなり、トイレに行くフリをしてそっと教室を出た。
10分ほど適当に校内を散歩してまた教室前まで帰ってくる。
まだ人だかりはなくなっていなかった。
(困ったなぁ…あれじゃ入れない)
仕方ないので、2組の教室の前で暇を潰すことにする。
その時、人混みの中から一人の男子生徒が抜け出してきた。
「……っ!」
その人は2組の教室に入ろうとして、廊下の向こうから来た友人と話始めた。
随分仲が良さそうだ。
兼重はその人から目が離せなくなった。
時々彼が声をあげて元気そうに笑う。
笑顔が似合う人だ。
兼重の第一印象はそうだった。
(とっても可愛い人だな…名前、何て言うんだろう)
しばらく見とれていると、チャイムが鳴ってみんな自分の教室へと帰っていく。
彼も友達に別れを告げ、2組の教室へと入っていった。
兼重も3組へ戻った。
その日から、兼重はあの彼の笑顔が忘れられずにいた。
数日後、初めての体育の授業があった。
1組から3組合同の体育。
相変わらず女子数人に囲まれていた兼重は無意識にあの時の彼を探した。
その人はチャイムが鳴る少し前に駆け足で体育館へ入ってきた。
体操服は適度に着崩され、彼の性格が伺える。
兼重は周りで騒ぐ女子たちもよそに、その彼に釘付けになった。
間もなく点呼や説明などがあり、授業が始まった。
初めの授業は親睦を深めるという名目でバスケをすることになった。
幸い、兼重は勉強もスポーツもそれなりにできる体質である。
試合に出る兼重を、女子たちが黄色い声で応援したことは言うまでもない。
しかし兼重はそんなことより、2組の彼が気になっていた。
無意識的に彼を見てしまう。
女子が試合をしているために解放された兼重は、試合を見ながら何気なく友達との話題に彼を出した。
「2組に可愛い人いるよね」
「え?あの髪の長い子?」
兼重の言葉に、すっかり女子のことを話しているのだと勘違いした友達は、女子側のコートに立っている美人を見て言った。
兼重はすかさず訂正する。
「違う違う、ほらあそこ。今ボール受け取った」
「あ〜…平助だろ?確かに可愛い奴だよ」
どうやら彼と知り合いなのか、友達は納得したように同意する。
「身長も体格も女子とあんま変わんねえし?とか言ったら、あいつムキになって怒るけど」
友達は笑いながら平助と呼ばれた彼のことを話す。
兼重はなんだか悔しい気持ちになる。
自分はその平助のことを何も知らないどころか、向こうに存在を知られていない事実にモヤモヤしたものを感じた。
平助はコートの上で何度もボールを受け取り、シュートを決めた。
彼は運動神経が抜群にいいらしい。
またシュートを決める。
「平助、ナイス!」
「任せろって!」
平助はあの時見た可愛らしく眩しい笑顔で友達とハイタッチする。
兼重はさらにモヤモヤが募った。
羨ましさと、焦りに似た何かが心に渦巻く。
(俺もあの子と話してみたいな…)