兼平ちゃん短編集

□両片想い 平助side
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「ねえー、見た?」


「見た見た!3組の人でしょ?超かっこいいよね?!」



高校の入学式。


クラス分けで2組になった藤堂平助の隣を、そんな話をしながら通りすぎる女子達がいた。


平助はその時、特に気にも止めず眠そうに欠伸をしながら教室へ向かっていた。


元々人見知りしない平助は、入学式初日でも友達ができた。


中学からの知り合いも多い高校だが、新しい友達とも仲良くなれそうだ。


教室に入ると、昔馴染みの友人が話しかけてきた。



「なあ聞いたか平助」


「何を?」


「この高校にすっげーイケメンがいるって話」


「はあ?」



どこからそんな噂が飛び交うのか。


そういえば、先程すれ違った女子もそんな話をしていたような。


平助はあまりに無意識で先程の出来事なのに記憶の片隅にも置かれてなかった。



「そいつ隣のクラスだって、見に行かねえ?」


「何で男が男見に行くんだよ…」



噂話や流行り物等は飛んで食らいつくタイプの平助でも、流石に学年のイケメンにはさほど興味を示さなかった。


平助自身、周りからかっこいいやら可愛いやらと囁かれ、そんなこともありルックスに対しては無関心だったのだ。


興味無さげな顔をしていても友人に腕を引かれ、結局その"イケメン"を見に行くことになった。




3組の前の廊下は、にわかに人だかりが出来ていた。


それもほぼ女子ばかり。


中には自分達のように、興味本意で見に来ているのであろう男子もいたが、女子に紛れてよく見えもしない。


周りより身長の低い平助は、背伸びをしたりジャンプしたりと努力はするものの、最後列からでは目的の人物は見えない。


どうしても今見なければ会えない有名人でもないし、そもそも興味なんてなかったんだし、と平助は心で呟いた。


先に教室に帰るから、と友達に告げ、平助は踵を返した。


するとすぐ、廊下で顔見知りと出くわした。



「あれ、総司に一くん?」


「平助?何してんのこんなとこで」



平助が声を掛けた二人は、小学校の頃から通っている剣道の道場での知り合いだった。


中学では部活も同じで、幼馴染みにも近い存在だった。



「別に?二人は?」


「学校回ってただけ」


「校内の把握は大事だ」



真面目な斎藤に、平助は「相変わらずだなー」と笑った。


しばらく廊下で立ち話し、チャイムが鳴るからと平助は二人と別れた。


平助の頭からはまたすっかり噂の彼のことは抜け落ちてしまっていた。




数日後。


その日は初めての体育があった。


中学までとは違い、高校の体育は2~3クラス合同で行われた。


平助のクラスは2組だったので、1組と3組が合同だった。


早速新しい友達も増えた平助は、特に仲良くなった友達と体育館へ向かった。



「そういや、3組ってーと王子がいるな」


「王子?」


「あー、道理で女子が騒がしいわけか」



平助は、二人の話に付いていけなかった。



「忘れたのかよ?ほら、入学式で噂になってた」


「………………あー……」



平助は何となく思い出した。


結局あれから一度も姿は見ていないが、イケメンだと騒がれてた人がいた。


女子にモテるから王子なんてあだ名が付いたのだろうか。


平助は王子と呼ばれるその人は、きっと自己中でナルシストな人なのだろうと勝手に想像して嫌気が差した。


ますます興味がなくなる。



「とにかく急ごうぜ、遅れる」



平助達は小走りで体育館へ向かった。
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