兼平ちゃん短編集
□発熱 後編
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あれから数日。
平助の様態はすっかりよくなり、すでに隊務に復帰していた。
結局"あの"後は他の幹部隊士や平隊士が見舞いに来て、誤魔化すように距離を取った。
その後人が入れ替わり立ち替わりで、いつの間にか眠ってしまったためあまり記憶はない。
翌朝目が覚めると、体はすっきりしていたし、喉は痛かったが熱も引いていた。
それでもしばらくは隊務を休み、完全に治るまで稽古も禁止されていた。
兼重はというと、平助が隊務に復帰した頃から見ていない。
恐らく本当に風邪が移って寝込んでいるのだろう。
見舞いに行こうと何度も思ったが、「それでまた移されるとキリがない」とみんなに咎められ、会いに行けないままだった。
あの後も何日か平助を看病していたのが良くなかったのか、兼重は長い間寝込んでいるようだった。
左之にはニヤニヤしながら「なんで平助の次に兼重が寝込んだんだろうな」なんて見え透いた質問を投げ掛けられたりもした。
風邪が蔓延し、幹部隊士が簡単に寝込んでばかりいると隊務が成り立たないため、兼重の看病は手の空いた平隊士が順々に行っていた。
特に平助は病み上がりのため、看病のためでさえ、その部屋に入ることは許されなかった。
どちらにせよ、しばらく隊務を休んでいた平助にはやらなければならない仕事がたくさんある。
会いに行く時間もなかなか取れない。
部屋から出てきた平隊士に何度か兼重の病状を尋ねたが、やはりまだ具合が悪いらしく、苦しんでいると皆口を揃えて言った。
それを聞く度、平助は心配を募らせるばかりだった。
大量にあった仕事にも一段落ついた頃、ついに平助はこっそりと兼重の見舞いに行こうと決心した。
新選組副長である土方歳三や総長の山南敬助に見つかれば、謹慎はまず間違いないだろう。
会いに行くなと言われている人に会いに行くのだから、その罰も当然だ。
しかし、元々熱を移したのは自分であり、苦しそうな恋人を黙って見ていられるほど平助も薄情ではない。
何か見舞いになるものがないかと探したが、生憎平助は兼重ほど料理の腕が立つわけではなかった。
兼重ならば、平助の作ったどんな料理でも美味しいと言って食べてくれるのだろうが、平助は世辞で褒められては恥だと思った。
仕方がないので、庭に咲いていた花を花瓶に生け、それを持っていくことにした。
その日の夜、平助は辺りを厳重に注意しながら、兼重が寝ている部屋へと向かった。