兼平ちゃん短編集
□体育祭
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──秋といえば。
食欲の秋、読書の秋。
人それぞれで秋の堪能の仕方があるだろう。
そして青春真っ盛りの高校生にとっては、何よりもスポーツの秋だった。
薄桜学園では夏休みが明けてまだまだ暑い中、グラウンドから元気一杯の若々しい声が響いていた。
一週間後にある体育祭のためだ。
どのクラスも白熱し、リレーや大縄跳びの練習に毎日汗を流していた。
練習の合間や自分の出場種目ではない待ち時間、7、8人の人だかりができる場所があった。
「兼重君、種目何出るのー?」
クラス関係なく女子に囲まれているのは、1組の兼重であった。
「えー、騎馬戦と借り物競争かなあ…あとはクラス種目だよ」
にこやかに受け答えする兼重を冷めた目で見つめるのは、幼馴染みで恋人でもある同じクラスの藤堂平助だった。
平助は平然を装ってはいるものの、目線は常に兼重の方に向けていた。
兼重は高校に入学した頃から女子の注目の的だった。
しかし、まさか自分達が付き合ってるとは言い出せず、この事を知ってるのは中学からの友達くらいだった。
当然二人が付き合ってることを知らない女子達の大半は兼重に告白もするし、平助自身も何度か告白されたことがある。
自分はその時「好きな人がいるから」と言って断ったが、兼重はなんと言って断っているかは知らない。
付き合ってる人がいると言っても、相手が誰なのかが分からなければいいかと思っていたし、バレても平気だとは思っていた。
だが平助の不安は兼重と恋人同士だと周りに知られるよりも、女子達と接する事の方が多い兼重が目移りしたりしないかどうか、ということだった。
平助と兼重は一緒の家で暮らしていた。
つまり同棲している。
だから兼重に限ってそれはないと思いたいが、実際学校で二人で過ごしている時間は思い返せばそんなにないような気がした。
特に体育祭という青春時代での一大イベントでは、女子達の兼重への視線も熱かった。
あんまり他の人に笑って欲しくない。
そう思っていても、言葉にできないのが悔しい。
祭り好きな平助にとっては、学校のイベントも楽しみだったが、こんなもやもやした気持ちでは楽しめそうにもない。
平助はそんな自分の気持ちに気付いてないような笑顔で話す兼重に苛立ちを覚え、その場を後にした。
否、正確には嫉妬している自分自身に平助は苛立っていた。
この程度で苛立ってしまうほど余裕がないのかと思うとひどくカッコ悪く思えた。