兼平ちゃん短編集

□潜入捜査 平助編
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京都に栄える花街──島原遊郭。


新選組にとってそこは最大の娯楽場であり、また敵方の情報を集めるための重要な場所でもあった。


最近新選組内で、長州藩士らしき人物が多数集まり、何やら策を練っているという情報が流れていた。


監察方である山崎烝からの情報であるため、信憑性が高い。


長州藩の動きを少しでも把握し、大事な事件は前もって対策を練りたい新選組にとっては、一刻でも早く相手方の作戦を知りたいところだった。



「…………で、何でオレなんだよ」



新選組八番組組長である藤堂平助は、何故か豪華絢爛な着物を着せられ、華やかな簪は美しく結い上げた髪に数本差されていた。



「何でって、一番適役だと思うけど」



笑いを堪えながらそう答えたのは、新選組一番組組長の沖田総司だった。



「平助は体格も女の人とそう変わらないしね。髪だって一番長いし、この役は平助しかいないよ」



励ましてるのか茶化してるのか分からない説明を付けたし、未だ納得のいっていないような平助に目を向けた。



「いや…いくら潜入捜査の隊務だっつってもさ…無理がねえか?」



平助は島原に"芸妓"として潜入し、長州藩の動きを探る、という隊務を任されていた。


なるほど総司の言うように、元々細身で背の低い平助は、幼さの残る顔立ちも影響したのか芸妓の姿がよく似合っていた。



「これで所作もそれっぽくしたら、きっと分からないよ」



やけに自信満々な総司に対し、やはり平助は自分の格好に疑問や不安を抱くばかりであった。



「うわー、うわー!平助どうしたのその格好!」



ふと後ろから聞こえたのは、平助の恋人である兼重の声だった。


その声はやけに弾んでいて、目を輝かせながら恋人の華やかな姿を見ている。



「え…いや……何でもねえよ…」


「平助はこれから島原で一仕事するんだよ」



あえてぼかしたのに、総司はわざわざ兼重に言いたくなかったことをさらっと言ってしまった。


総司の性格上分かってのことだろうが、平助はその誤解を生みそうな説明にも焦りを覚えた。



「ひ、一仕事ってまさか…平助、他の男の相手するの…?」



案の定、兼重は平助が芸妓の一人として酌や芸事を見せるのだと思い込んでしまった。


その顔は絶望に満ちて見える。


兼重は平助の事となると周りが見えなくなってしまうところがあった。



「だーかーらー、ちげーっての!あくまで潜入捜査!!誰が見ず知らずの親父の相手なんかするかよ」



兼重の誤解を解こうと、声を大きくして主張した。


平助にだって男としての誇りがあるので、好き好んで芸妓の格好をして男に媚びへつらうといったことはしたくない。


これで誤解も解けたか、と兼重の顔をちらりと見ると、それでもなお兼重は不安を拭いきれないといった様子で平助を見つめていた。
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