兼平ちゃん短編集
□あいつの性分
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藤堂平助の部屋に集まったのは、いつもながらの面子、原田左之助と永倉新八だった。
酒やらつまみの煎餅やら小魚やらを畳に広げ、盃を酌み交わしながら世間話に花を咲かせていた。
世間話、とは言っても、平助より4つ5つ年上の兄貴分が気になるのは、弟分の恋愛話だった。
「で?あいつとはどうなんだよ平助」
その話を切り出したのは左之の方だ。
あいつ──すなわち、平助の恋人である兼重のことだった。
「どうもこうもねえよ。あいつの変態さ、もう手に負えねえ」
「今に始まったことじゃねぇし、いいんじゃねぇのか?」
げんなりする平助に、慰めなのかそうでないのかどちらとも取れない言葉をかけたのは新八だ。
兼重が変態なのは、新選組内ではめっぽう有名なことだった。
平助が好きすぎる故に、何をされても喜んでしまう性癖を持つ兼重は、平助にとっては悩みの種でもあった。
「この前なんかあいつ、懐にオレの褌入れてやがったんだぜ」
「はっはっ、そりゃ傑作だな」
左之も新八も声を合わせて笑う。
「笑い事じゃねえよ」とうんざりした様子で平助は盃を傾けた。
「でもそんだけ好かれてんだろ?いいじゃねぇかよ」
「新ぱっつぁんにはわかんねえよ…」
平助が殴ったり蹴ったり、いっそのこと無視を決め込んでもいつも兼重は嬉しそうにしている。
根っからの変態だと、最近では平隊士の間でも有名になっている。
それでも誰も止めないのは、平助への愛から来ているということを分かっていたからだ。
当然平助本人もその事は分かっているのだろうが…。
「あそこまでいくともう犯罪だぜ…」
「新選組隊士が逮捕されちゃ本末転倒だわな」
皮肉さを込めて左之は言った。
兼重の性分だとしてももう少しどうにかならないのか、と毎日平助は頭を悩ませていた。
「稽古だって、平隊士には本気で相手してくれるからいいけどさ…オレにはちっともだぜ」
「そういや、あいつが平助に勝つとこは見たことねえなあ」
稽古の風景を思い出しながら、新八は呟いた。
平助の束ねる八番組は、皆毎日木刀を振るうことに手が抜けなかった。
もちろん新選組隊士であれば当然日々の稽古は必須である。
その中でも兼重は平助に似て凄腕の持ち主だった。
平助と互角、あるいはそれ以上とも噂されている兼重は、平助と手合わせをする度に木刀を頭や脇腹に打ち込まれ、柔道で組み合ったときは大抵投げ飛ばされている。
「なんで本気出さねえか聞いたのか?」
新八はどうにも納得がいかず、平助に疑問を投げ掛けた。
「あー…なんかオレに本気を出せないだとか、踏まれたいだとか…」
平助の返答に、プッと吹き出したのは左之だった。
「そりゃあお前、あいつらしい答えじゃねえか」
何故だかこの答えに二人は妙に納得した。
平助に踏まれたいという願望は、兼重らしい独特の感性だったからだ。
「あいつが平助を殴るところなんて、想像つかねえしな」
確かに兼重に殴られればそれはそれで腹が立つような気がした平助は、何となく納得できた。
変態じみていていつもべたべた付きまとって鬱陶しい。
鬱陶しくてうんざりするのに、
(そういうところも好きなんだよなあ…)
兼重の性分全てひっくるめ、平助は愛しさを感じた。
*完*