兼平ちゃん短編集
□両片想い 兼重side
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兼重が可愛いと言った平助のことはみるみる噂になった。
とはいっても、広まったのは主にクラスの中で、本人の耳に届くことはなかった。
特に男子は興味津々のようで、2組の友達に用があると言っては平助を見に行く人も多かった。
その度に可愛い可愛いとみんな噂をするようになった。
兼重は、クラスが違うことでなかなか話しかける機会を掴めずにいた。
突然話しかけられても困るだろう。
どうやったら話せるか、どうすれば自分の存在を知ってもらえるか。
平助の姿を見られるのは体育の時くらいで、あとはタイミングが合えば登下校や廊下で見かけることがあるくらいだった。
休み時間も女子に囲まれることが多かった兼重は、わざわざ2組に遊びに行くこともできない。
いつしか平助のことばかり考えるようになり、たまに誰かと笑っているところを見かけては胸を痛めた。
これが恋だということに気が付くのに時間はかからなかったように思う。
初めて誰かを好きになった。
これが恋なのかと、兼重は幸せな気持ちと苦しい気持ちを味わった。
しかし問題はそこではない。
(男に好かれるなんて…嫌だろうな)
そう、自分も相手も男同士。
友達としてならまだしも、恋愛として好きと言われれば、流石の平助でもドン引くだろう。
もしそうでなくても、困ってしまうに決まっている。
あの可愛らしい笑顔が似合う平助に、そんな顔されたくはないし、させたくもない。
兼重はこの気持ちはずっと隠しておこうと決めた。
せめて友達になれるのならそれでいいと、兼重は初恋を胸の奥にしまい込んだ。
そんなある日のこと。
ついに兼重にもチャンスが巡ってきた。
その日はテストを2週間先に控えていたため、兼重は一人教室に残って勉強していた。
1時間ほど勉強すると、少し休憩のつもりで自販機に向かった。
その途中、部活終わりに見えるクラスの女子二人に捕まる。
「兼重君、何してるの?」
「勉強してたんだ」
「すごい!兼重君て、真面目なところも素敵だよね」
その女子は結構派手めな子達で、あからさまに媚を売られて兼重は苦笑いしてしまう。
日頃から兼重に絡んで積極的にアピールしてくる子達で、嫌いではないのだが時々困ることがある。
流石の兼重でも、狙われていることくらいはわかるからだ。
彼女たちを傷付けないように上手く避けてきたつもりなのだが、どうやら効果はなかったらしい。
兼重が自販機に飲み物を買いに行くと告げると、彼女たちも兼重を挟んで歩き出した。
するとすぐに話題を持ちかけてくる。
「ねえねえ兼重君、今日これから用事ある?」
「そんなことより、ねえ、今度私と一緒にどこか行かない?」
「ずるい、私も!」
兼重が答える暇もなく次々と誘いの言葉が繰り出される。
またもや苦笑いで返事を濁すしかできず困っていると、2組の教室に誰かいるのが見えた。
通りすがりに窓から覗くと、そこにいたのは平助だった。
しかもこちらを見ている。
しっかりと目があって、嬉しさと驚きを感じながらも兼重は咄嗟に笑って見せた。
目の前のノートやプリントを見ると、日直の仕事を任されていのだろうか。
兼重は、初めてとも言える平助とのアイコンタクトに少し胸を踊らせた。
(変な奴って思われてなければいいけど)
片想いならではの不安はあったが、兼重の頭の中は平助のことしかなかった。
自販機で飲み物を買うと、二人の女子にはまだ勉強があるからと別れを告げた。
帰りの廊下で、また平助を見られるだろうかと急ぎ足で教室に向かう。
2組の前を通るとき、ちらりと横目で教室を覗く。
すると平助は気持ち良さそうに寝息を立てていた。
平助の前にはまだ山積みのプリントが残されている。
兼重は少し考えたあと、自分の荷物を持ってくると2組の教室に足を踏み入れた。