深縁のディスペア


□最速
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同時刻。別の場所にて。


「影鬼」


「千手光天大砲」


「流刃若火」


3方向から来た攻撃を最小限の動きでかわす春音緑翠。


「隊長格三人がかりでその程度か」


「止してよ、アンタが強すぎなんだって」


「威勢だけは一流のつもりかい? 精神だけじゃどうにもならないよ」


優しげな笑みを浮かべて、手をひねる。
その動きに合わせて斬魄刀“刹那”が宙を舞った。


「春音緑翠。尸魂界を変革したかつての長よ。何故、鏡樹千良につき従う?」


「鏡樹千良、ね」


少し不快そうに笑う緑翠。
飛んできた刹那を元柳際はかわした。


「ハリケーン」


緑翠を中心に竜巻が発生する。
周りの木々を根元から抜き去り、宙で拘束に回転する。


「“刹那”。その槍は持ち主の自在に動き、先端に秘められた毒は万物をも溶かす。一振りで竜巻を発生させる風の刃」


「説明してる暇はないと思うよ、重国」


霊圧を込めて、はじかれる。
ズザーと音を立てて踏ん張る元柳際。
緑翠の背後から京楽と浮竹が同時に斬りつける。
緑翠は自分の身体を後ろに傾け、二人の手首をつかむと、元柳際の方へ投げた。


「なんて力だ……!」


「輪花隊長がかわいく見えてくるね」


輪花、という言葉に緑翠は反応を示す。


「なあ重國、僕がどうして弟子をとらなかったのかわかるか?」


二人を受け止めた元柳際を冷たく見つめる。


「幼稚な頭に行き過ぎた力を与えると、ああなることがわかっていたからさ」


ああなることとは、千年前の事件のことを指していることが分かった。


「やっぱりお前を生かしておくべきじゃなかった。
炎熱系の中で屈指の力をもつ流刃若火、奴に小雪那が気まぐれに手を貸したがために僕の努力は水の泡だ。
本当に、余計なことしかしないよな、昔から」


「それほど輪花隊長を想うのなら、何故刃を向ける!?」


浮竹の問いに緑翠は嘲笑する。


「勘違いするな。僕は二人に救いを与えて殺すためにあの森にいさせたんだ。
情があるのに殺すんじゃない、情があるから殺すんだ。
だって、こんな汚い世界でこれ以上可愛い妹と弟を壊そうだなんて、残酷だろ?」


「救い、ね。じゃあ聞くけど、輪花隊長と日番谷冬獅郎が望んだものって何だい?」


「…………お前たちは不思議に思ったことはないか?
日番谷が輪花の記憶を戻さなかったことを。
その気になればできたんだ。あの子は賢い。僕らの中ではずば抜けて頭がよかった。
でも、しなかった、何故なら日番谷の望んだものが“不変の愛”だからさ」


「不変の愛……?」


「またずいぶんロマンチストな……」


「たとえ記憶を無くそうと変わらぬ愛。たとえどれだけ堕ちようとも無くさない愛。
たとえどれだけのことをしようとも憎しみさえ超える愛。
流石は番、と言ったところか、輪花は救いが死であることを思い出さずとも日番谷を救って見せた」


「でも、彼女の望みは違ったわけだろ?」


「人はそれぞれ抱く望みは違うさ。
輪花が望んだのは“愛の象徴”。すなわち“子供”だ」


「……まあ、女性なら誰でも思うだろうよ…………」


「わからない奴だ。輪花はすでに情交すらできないんだよ。
輪花のサブスキル・絶対侵入。それは相手を自分自身に変える力だ。
特に発情しているときは無意識のうちにそれを使ってしまう。
大概のものは輪花の霊圧と人体構造に耐え切れず死に至る。
唯一情交できたのは、“完全遮断”の能力をもつ日番谷だけだった。
もう500年もすれば身ごもれたって時にお前が余計なことをするから台無しだ。
輪花は永遠に救われはしない」


「輪廻にすら還れず、完全消滅するよりは、そちらの方が良い」


「ッ! すぐに死ぬ弱者が、死ねない強者の心などわかんないさ」


竜巻が止む。
薙ぎ払われた木々と民家。
更地となった大地に無数のアンデットが出現する。


「天使家のこの力。やっぱり乗っといて正解だった。
なあ、教えてくれよ重國。お前、いつから人の価値観を計れるほど強くなったんだ?」
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