深縁のディスペア
□自覚
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「さようか」
隊首会。
南流魂街・風月にて例の化け物に遭遇した白哉はその詳細を説明し終えた。
「して、その少女は……」
「力及ばずながら……」
取り逃がしました、と白哉は冷静を装った声で言った。
だが、心境はかなり屈辱なはず。それを義妹であるルキアはひしひしと感じ取っていた。
「白哉でも追い付けなかったのかよ……」
「黒崎一護、朽木ルキア、お主らも例の化け物に遭遇したそうじゃな」
「はい。それについてご報告させていただきます」
ルキアは片膝をついたまま説明した。
例の化け物と遭遇したこと。それがどこからか聞こえてきた歌声によって消滅したこと。
四大貴族・天使家の当主とその際遭遇したこと。
すべてを聞き終えると元柳斎はうむと頷く。
「紫色の髪と赤色の瞳…………身体的特徴から言って同一人物である可能性が高いな」
浮竹が言う。
「でも、『東雲』と『風月』ってそれなりに遠かったよね?」
「それだけの歩法の技術を持っているということなのだろう」
京楽の疑問に、砕蜂が答える。
「おもしろいじゃないかネ。それだけの歩法を使えるということは霊力は我々と同格以上ということ。それこそ朽木隊長が霊圧を感じ取れないほどにネ。
実に興味深いじゃないか」
キキっと甲高い笑い声をあげながらマユリが言う。
「あの化け物倒したってことは相当強えんだろ? 一回殺り合いたいみたいもんだ」
剣八が楽しそうに言う。
一護は激しくアゲハに同情した。
カンっと元柳斎が杖で床を叩けば騒がしくなっていた部屋は静かになった。
「此度の騒動、鍵は“輪花アゲハ”と見たり。六番隊は“輪花アゲハ”を捜索し、捕縛せよ。
例の化け物についての情報を引き出す」
「承知」
「では、これにて隊首会を――――」
「あー山じい、ちょっといいかい?」
気の抜けた声で京楽が口を挟む。
「何じゃ」
「いやー、ひとつ確認したくてね。
“十番隊隊長”って本当にいなかったっけ?」
全員の視線は京楽とマユリの間、本来十番隊隊長の位置に注がれた。
誰もいない場所に何故か違和感を覚える。
「何を申す。志波一心の喪失からそのままじゃ」
(親父……乱菊さんのとこだったのか……)
日番谷との大戦の時に現れた一心を思い出す。
「何故そんなことを聞く?」
「ん〜。どうしてかな。つい最近まで誰かがいた気がしてさ」
「………………話がそれだけならばこれにて隊首会を閉幕とする」
間をおいて元柳斎が告げる。
今の間が何かを隠しているのではなく、彼も違和感を抱いたのだと長い付き合いの京楽たちは理解した。
ばらばらに部屋から退室する中、白哉が一護とルキアに告げた。
「天使家当主がお前たちにお礼がしたいと夕食に招かれた。
他の友人もご一緒にとのことだ。粗相のないようにいたせ」
「はい。兄様」
「おぉー、貴族の飯か…。きっと豪華だぜ」
一護はテレビで見るような絢爛豪華な食事を想像し、まだ夕食には時間がある中、腹の虫を鳴らした。