深縁のディスペア
□忘却
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悲鳴が聞こえる。
護廷十三隊と貴族が住む瀞霊廷内であちこちから響き渡る悲鳴。
その悲鳴の中心に立つものは物音ひとつ立てずに巨大な鎌を振るっていた。
「……どうし、て…………」
隊士の一人が呟く。
彼は鎌で上半身を深く斬られた。
それでも傷一つない。ただ、黒くドロドロした球体が隊士の身体から出て宙に浮かび、やがて見えなくなった。隊士はそのまま気を失った。
「どうしてこんなことをするんです……」
現場に駆け付けた檜佐木が鎌を持った者に問う。
彼女が普段身につけている白い羽織はすでに灰となった。
彼女は肩と背中が大きく露出した西洋風のドレスを身に纏っている。
檜佐木の質問には答えずに彼の頭を鎌で斬る。
隊士と同じ黒い球体が檜佐木の中から出ると宙へ浮かんで行った。
「さようなら」
自分という存在を知るもの。自分の名を知るものの存在をすべて切り捨てる。
彼女は半日前まで護廷十三隊の隊長を務めていた。
だが、それを覚えているものは一部を除いて存在しない。
「逃したりなど、しないのです……!」
誰もが知らないこの事件が起こったのはつい一週間前の事だ。