深縁のディスペア


□決着
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日番谷がたつきたち四人に近づく。

(あぁ、これだ……。逃げ惑い、恐怖されることが俺の渇きを潤す)

途中から乱入してきた車谷の妨害などあってないようなもの。
効かないとわかった途端一目散に逃げ出す。

「……只今戻りました。日番谷さん」

「戻ったか。松本乱菊はどうした?」

「殺しました」

「…………」

翼を傾けて宙に浮いた日番谷は市丸と目線を合わせ、至近距離まで近づく。
そして崩玉と同化した左手を市丸の首にかけた。

「その程度の嘘が俺に通じると思っているならいい度胸だ」

日番谷にとっては大して力は籠めていない。
それでも死神より数段腕力が上なため、市丸のぐぐもった声が聞こえた。

「この霊子の流れから察して白伏だろう?
相手を仮死状態にするやり方を、藍染から通じて教えといたはずだが――――」

市丸の神鎗が日番谷の胸を貫いた。

「――あなたのその鋼皮をもしのぐ固い皮膚。
それ通常の固さなら刃も通らない。
ただ、唯一、あなたが卍解状態になって尾が生えてから一時間だけ、心臓を中心に皮膚と筋肉が柔らかくなる」

市丸はすぐさま神鎗を元の長さに戻した。
日番谷は左手を離す。

「その事実にたどり着くのに何十年かかったやら。
僕の神鎗は元より、護廷十三隊の誰もがあなたの身体をつらぬけへん。
まあ、双子の姉である十番隊長さんは別やった見たいですけど、あの子は周りに人がいると遠慮して全力が出せない性質。
つまり日番谷さん殺せるのは僕だけ」

「……知っていたさ。てめえの狙いなんて最初からな。
それでもお前が輪花と同種だったからこそ興味があった、俺の命をどう狙うか。
だけど、残念だ市丸。お前がこの程度で俺を殺せると――――」

「思うてません」

市丸が日番谷の言葉を遮った。

「見えます? ここ、欠けてんの」

神鎗の刃の中心を指さした。
そこには小さな穴が開いていた。

「今、日番谷さんの中に置いてきました。
どうせ、藍染隊長に僕の卍解の能力伝えたのも聞いてたんでしょ?
すんません、あれ嘘言いました。
言うたほど長く延びません。言うた程早く延びません。ただ、伸び縮するとき一瞬だけ塵になります。そして、
刃の内側に細胞を溶かし崩す猛毒があります」

「…………」

「…解ってもろたみたいですね。今、胸を貫いてから刀を戻す時、一欠だけ塵にせんと日番谷さんの心臓ん中に残してきたんです」

市丸は日番谷の胸に手を当てた。

「死せ、神殺槍」

「ふっ、知っていたさ。それを踏まえての失望だ」

「!?」

溶けるはずの身体はそのまま。
市丸は日番谷の尻尾の打撃の勢いのまま近くのビルに突っ込んだ。

「お前が神鎗を手にする前、神鎗の元になっている細胞を溶かす毒。それを作ったのが誰かお前は知らないだろ?」

市丸は瓦礫の中から上半身だけを起こした。
そしてすぐさま、日番谷の尻尾が胸を貫く。

「霊王の第二王妃、別名“全能の女王”。そして、俺の母親だ」

ゴフッと市丸は血を吐いた。

「わかるだろ? 俺の母親ってことは輪花の母親も同じ、あいにく俺はあの女とは似ても似つかねえが、輪花は“会ったことすらない”母親の才能を受け継いでいた。
毒を創るのなんて日常的だ。そんな奴と五千年も一緒にいたんだ。
俺に毒は効かねえよ」

立ちふさがる圧倒的理不尽。
引き抜かれた尾からあふれ出る血。
市丸は絶望の中走馬灯を見た。
すべては幼馴染の為に捧げてきた人生。

(ああ、やっぱり、謝っといてよかった)

もう動かない身体に縋って泣き叫ぶ幼馴染に言葉を掛けることができないと悟って、双極の丘でのことを思い出した。

そこに木霊する、ダン、という足音。
少し成長した一護が一心を抱えて現れた。
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