アトーメント(atonement)

□ケロゼロ編
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今から少し昔のケロン星。ガマ大星雲の58番目の侵略型惑星。
そこに住まうケロン人。彼らの多くはまるでそれが当たり前であるかのように軍人を目指す。
ケロン軍は今や地球侵略のためにグランドスターに数多の小隊を終結させた。

そのうちの一つ。ケロロ小隊は搭乗前のオブジェクトの前で集合を果たす。

「お待ちしてましたです。タママ二等兵です!」

どこか顔色を悪くしたケロロ、ギロロ、ゼロロがタママの呼びかけに一瞬ビクつくもすぐに平静を取り戻し敬礼を返す。

「お、おぅ、タママ二等兵でありますか。吾輩がケロロ軍曹であります。
ってことは、そっちの二人が……」

猫背を向けているクルル、オブジェクトの前で腕を組むアルルに目を向ける。

「クルル曹長だ。パレードのコピーロボットの件なら礼はいらないぜ。クックックッ」

「いやいや。流石はクルル曹長。完璧な作戦通信参謀っぷりだったであります!」

(クルル曹長……異例の速さで少佐にまで出世したが何やら問題をお越し、曹長に降格になった男)

「あんたがギロロ伍長か。よろしくな」

「こ、こちらこそ。クルル曹長」

ギロロは敬礼するが、クルルは敬礼をかえさなかった。

「ということは最後の一人、あなたがアルル准尉でありますな」

「そうだ」

そっけないやり取りにどこか緊張が走る。

(アルル准尉。ガマ星雲大戦争においてケロン星の敵となり、数々の汚名を残した戦争犯罪者。成程、僕たちの役目は彼の御目付け役も兼ねてるってことか)

ゼロロは冷静に分析する。

「不束者ですがよろしくお願いしますです!」

圧巻の一言に尽きる面々にタママは目を輝かせてお辞儀をする。

「よぉし! これでケロロ小隊、全員集合でありますな! それでは記念の初共鳴! いっちょいっとく?」

ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ
タマタマタマタマタマタマタマタマタマタマタマ
ギロギロギロギロギロギロギロギロギロギロギロ
クルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクル
ゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ

五人の共鳴の混じって遠のくピコピコという足音が響く。

「ちょっとアルル准尉乗り悪いでありますよ」

どこか不快そうに耳を塞いでいたアルルは首だけをケロロに向ける。

「そんな下品な共鳴やりたくないね」

ケロン人の発する共鳴には超常的な力が宿る。だがその意図を理解せずに使えば単なる雑音に過ぎないのだということをアルルは知っていた。

「乗り悪いでありますな」

「何か感じ悪いですぅ」

ぶうっと不貞腐れてケロロたちもグランドスター内に乗船する。
小隊ごとに割り当てられた個室に移動する。

「なんか狭いでありますな」

入ってのケロロの第一声がそれだった。

「地球到着までこんなところで吾輩たち六人暮らさなきゃいけないの〜? もっと広い部屋に変えてくれないの〜?」

『グランドスターには48万3793の小隊ルームがあります。それらは全て同一タイプに造られておりますので、もっと広い部屋というのは存在しません』

部屋の向かい壁中央のモニターにケロン軍のマークが浮きあがる。

「こ、この声は……?」

『私はケロロ小隊ルーム担当の人工知能です。K-6000とお呼びください。
早速ですが本人確認と私のダウンロードを行いますので、ケロロ軍曹は隊長の証であるケロボールの提示を、アルル准尉はイディオムリングの接続をお願いします』

「ゲロォ……」

「ケロボールにイディオムリング! 僕見てみたいです」

アルルはK-6000と自分が嵌めていた腕輪を専用のコードで接続する。

『ダウンロードにしばらくかかります。そのまま待機してください』

「ケロロ軍曹、ケロボールの提示を……」

「そ、その前に! ベッドどこにするか決めちゃわね!?」

「お、俺は武器の手入れを……」

「ぼ僕は荷物の整理をしないと……」

『何を誤魔化しているんですか?』

ぎくりと三人が肩を震わせる。

『まさかとは思いますがケロボールを忘れたりだとか無くしたりだとかしてませんよね?
グランドスター法、第375条。グランドスター内に乗船する小隊長はケロボールを常に携帯していなくてはならない。ケロボールを携帯していないことが発覚した場合、即退艦してもらうことになります』

「どうすんじゃー! 
大事なケロボールを忘れたり……無くしたりなんてこと……あるわけないでありますよ。やだなもぅ……」

『だったら早く見せてください。あ、アルル准尉。ダウンロード完了です』

アルルはコードを引き抜く。

「ええっとどこにしまったかな?」

バックを探し、取り出したゲーム機をすれ違いざまにアルルは取り上げる。

「グランスター法第八十八条、私物は全て没収。仕事中にゲーム奴初めて見たわ」

「そんなぁ〜! 折衝でありますよ! アルル准尉〜」

「俺が決めたことじゃない」

自分の手荷物を片手に、ケロロのゲームを上に取り上げる。
数センチ差でアルルの方が高いためかケロロは駄々っ子のようにその手に全身を伸ばすが届かない。

突如、警報が鳴り響く。

「何事だ」

アルルはゲームを置き、イディオムリングを操作する。

「正体不明の何者かがグランドスター内に侵入、ね……」

「そ、それは一大事であります! ケロボールなど捜している場合ではない」

チャンス到来とばかりに隊員たちに指示を出す。

「ケロロ小隊全員出撃であります」

『あ、今出ては危険です』

K-6000の言葉など耳にも入らず、ドアに突進したケロロは同時に来訪した侵入者と衝突した。
侵入者はゼリーのような身体をしていたため衝撃音はなかった。

ギロロが武器を取り出して構えるころには侵入者は姿を消していた。

「K-6000。この部屋を封鎖しろ」

『了解』

アルルの指示で、部屋は封鎖される。

『侵入者はかなり高度な擬態能力を持っています。注意してください』

「擬態能力?」

「つまり、何かに変身できるってことだ」

首をかしげたタママにクルルが答える。

そしてケロロは疑わしげに自分のゲーム機に目をやる。
一つしかないはずのゲーム機が二つある。
手を伸ばそうとした瞬間、侵入者は姿を晒し、部屋中を逃げ回る。
それをギロロが銃撃で追撃するが逃げられる。

『ただちに敵を排除してください。排除できない場合はグランドスター法第768条に乗っ取って最終手段を行使します』

「最終手段だと?」

「この部屋ごとグランドスターから切り離し宇宙の藻屑に消えるってこと」

「そ、そんな! っていうかアルル准尉! それ知っててこの部屋封鎖させたでありましょう?」

「普通の判断だろ? それよりとっととケロボール使って任務を果たせよ」

「ギクッ、そ、それは……」

「なくしたり忘れたり……してないんだろ?」

冷たいアルルの瞳。
このまま自分も藻屑と消えても構わないという焦燥感ゆえの行動だった。

「よ、よぉし! これがケロロ小隊ファーストミッション! 総員全力で敵を捕獲、排除するであります」

「「「「「了解!」」」」」

「クルル曹長、生体反応は!?」

「相当高度な擬態能力を持っているようだ。生体レーダーにも反応しねえ。おっと今反応があった。隊長の後ろだ」

「そこだ!」

ケロロの後ろ蹴りはギロロの股間に命中。

「おっとすまねえ。今のはギロロ伍長の尻の反応だった。クックックッ」

「気をつけろクルル曹長。戦場ではミスは許されんぞ」

絶対わざとだと一部のものがそう思った。

「レーダーに反応がないとすれば目視に頼るしかないということ」

「上等だ! 十秒で灰にしてやる!」

ギロロは銃を乱射しまくる。
その部屋のあったパソコン、椅子、ケロロのゲーム機が木端微塵となり爆発音を立てる。

「のぉぉっぉぉぉんっ!!」

それにケロロの絶叫も加わる。
部屋の惨状に驚いた侵入者はトイレへと逃げ込む。
それを怒りに震えたケロロが追いかける。

トイレに鍵をかける音が響く。

「この部屋の修繕費は経費から下りるか?」

『少々過剰ですから微妙なところですね』

などとアルルとK-6000が話しているとトイレを流す音が聞こえ、ケロロが神妙な面持ちで出てきた。

「敵は宇宙へ流してしまったであります。このケロボールを使ってね!」

ケロロは高笑いを上げ、アルルは訝しげに睨み、K-6000は満足そうに笑う。


その日の夜。
用意された執務室で今日の被害総額についての書類と睨めっこをしながらアルルはため息まじりに天井を仰ぐ。

「姉貴……」

イディオムリング。ケロボールよりもオーバーテクノロジーな腕輪型グッツ。兵器にも電話にもカメラにもなる便利な代物。
その中でアルバム写真を開く。
色あせた思い出。もう帰ることのない幸せ。
これ以上失わないで済むのならアルルは全てに耐えて見せよう。

「だから姉貴生きててくれ……」

七兄弟の中で一番年の近かった三女。
もしかしたらもう死んでいるのかもと思ってしまうほどもう何百年もあえていない。
だが彼女がアルルにとってケロン軍が抱える人質である以上むやみなことはしないはずだ。

「会いたいよ」

もう一度家族で笑えたなら。
アルルはもう一度書類に目を通し、その夜は終った。
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