深縁のディスペア


□拒絶
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町はずれにある寂れた駄菓子屋『浦原商店』。

「浦原喜助はいるかしら?」

「あぁ? 誰だテメー!?」

頭の悪そうな少年が話しかけてきた。

「いるの? いないの?」

「はいはーい。お待ちしてましたよ。輪花サン」

呑気な声を上げながら転がるように奥から出てきた帽子をかぶった男。
彼が浦原喜助。初代技術開発局局長にして前十二番隊隊長。
そして、惣右介の闇に気が付いた数少ない存在。

「粗茶ですが」

「…………」

お茶は苦手。飲めないのではなく苦手。

「総隊長から何か聞きました?」

「いいえ」

「まいったな……。僕任せッスか」

演技臭いなこの人。

「まず最初にすみませんでした」

そういって喜助は頭を下げてきた。
どうして年長者たちは私に謝ろうとするのかしら。

「面を上げなさい。そして説明しなさい。話が見えないわ」

「そうっすよね……。すみません」

「謝らなくていいわ。くどいだけだから」

「言い方きついっすね〜。人に言われません?」

「話を進めなさい」

「はいッス。まず前置きっすけど、輪花サン、あなた昔のこと覚えてます?」

「昔にもいろいろあるわよ。具体的にいつ?」

「百年より前」

「覚えているわけないでしょう。あの時私は流魂街についたばかりなのよ」

「実はそれには誤りがあるんす。あなたは百年……いや、千年以上前から流魂街にいました」

……は?

「何故そう断言できる?」

「南流魂街の『輪花』ってご存知ですか?」

輪花……。私の苗字と同じ土地の名前。
通称『何もない地区』。そこには自然も人も虚もいない。
千年前は森が多い茂っていたらしいが、山本総隊長の前……春音緑翠という人が総隊長だった時に全焼したらしい。
その森を焼いたのが山本総隊長、当時一番隊の副隊長だったその人だ。
理由は危険分子の封印。
何故抹消ではなく封印なのかは知らない。記録はほとんど残っていなかった。

「その『輪花』に封印されていたのは『厄災の双子』と呼ばれる子供だったそうです。私もまだ生まれていないんで詳しいことはわからないんですけど」

「それと私に何の関係があるの?
いいえ、それより。封印されていたのは一人だけ?」

「そっす。森にいた双子の姉弟のうち姉の方のみが封印され、弟は行方知れず。まるでおとぎ話っすよね」

「ちゃかさないで」

「問題はその封印に綻びがあったことに誰も気づけなかったことっす。
百年前に封印は解かれ、姉は外に出ました。
ただ、その子はひどく弱っていて技術開発局の装置でなければ異変に気づけませんでした。
知っているのは私だけっす。私はすぐに現地へ赴きました。
そこで見つけたのが輪花サン、あなたなんです」

話の流れから大体予想していたけどここまであたるとは。
厄災の双子……聞き覚えはないが妙にしっくりくる。

「総隊長は私にあなたの記憶と霊圧を剥奪したうえで、流魂街に流すように命じました」

「待ってちょうだい。霊圧を剥奪した?
なら……」

「そうっす。私はあの時命令通りあなたの記憶と霊圧をそれぞれこの結晶体に封じ込めました」

喜助はそう言って、二つの水晶を見せてきた。
綺麗な紫色をした水晶。引き寄せられるような近づきがたいような。

「ですがあなたにはそうして霊力がある。定期的に霊圧抑制剤を飲み続けなければ爆発するくらいの巨大な霊力が」

喜助は水晶を改めて見返した。

「まあ、そこは置いておきます。
先日総隊長は私に命を下しました。
『輪花アゲハの記憶を戻し、判断を仰げ』と。
霊力を戻すのは現状危険なのでできませんが、あなたにはすべてを知る権利があります」

真剣な瞳だ。
それに対して私は態度で示そう。

「クス」
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