恋乱LB V

□袖振り合うも多生の縁
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「さっ才蔵さん?」

「だって幸村は勉強したいんでしょ?それならこういうのを見せるのも必要だと思うけど」

「そっそうだな!俺はいないものとして扱ってくれ!」

「だってさ」

「いないものとしてって言われても…」

「お前さんが引き受けるって言ったんだから。協力してあげなよ」

「は…はあ…」


顔を赤く染めチラチラと俺を気にする名無しさん

そして俺にとっては過酷で刺激的な勉強会が幕を開けたのだったー…












「これでよしと…すみません才蔵さん、荷物持たせてしまって…」

「別に」


(買い物は必ずついていき、荷物は男が持つ…と)


買い物をする二人の後ろでサラサラと紙に書き留めながらついていく


「…………」


すると名無しさんがとある店の前で立ち止まった


才蔵もそれに気付いたようで同じく足を止める


「欲しいの?」


鈴蘭を象った小さな鈴がついたかんざしを見つめて、溜め息をつく名無しさん

「あ…いえ…綺麗だなって思って…でも私には到底似合いませんから!行きましょう!」


スタスタと歩き始めた彼女の隣にピッタリと寄り添う才蔵に、慌てて俺も後を追う





城に近い河川敷に差し掛かった頃


二人は相変わらずとりとめもない会話をしながら楽しそうに歩く



「…あ、蝶が…」


するとフワリフワリと優雅に舞う蝶が才蔵の柔らかな髪の毛に止まった


「ふふ…才蔵さんの匂いに寄せられたのでしょうか」

「…それを言うならお前さんでしょ」

「え?」

「お前さん、いつも甘い香りがするし」

「きっとお団子ばかり作っているからですよ」

「…俺も寄せられたのかね」



(…見ていて痒くなるな)


昔から知っている筈の男が、好きな女の前ではこんなに甘くなるものだろうか

今まで知らなかった親友の意外な一面にこちらまで顔が熱くなっていく



(い、いかん!きちんと見ておかなくては!)



才蔵はフッと表情柔らかに、名無しさんの髪の毛に触れた


チリン…と小さな音を立てて離れた名無しさんの髪の毛には、先程見つめていた鈴蘭のかんざしがつけられている



「えっ?いつの間に…」

「似合うんじゃない」


(才蔵おぉー!!お前というやつはっ…いつ買ったんだ!!)


慌てて今起きたことを書き留め、二人の様子を見守る


「あっ…ありがとうございます。嬉しいです!」

「ん」


流れるような自然な手つきで、二人の指が絡み合い

しっかりと繋がれるのを、黙って見つめた


















「幸村、見合いのために勉強してるんだって?」

「はっ!才蔵と名無しさんに付き合ってもらい、二人の様子を観察しています!」

「で、どうなんだ?いけそうか?」

「いえ…その…某にはなかなか高い壁というか…」

「ほう…才蔵もなかなかやるんだな」

「はい…見ていると私には到底無理な気がして…」

「ふむ……」


御屋形様は何かをじっと考える素振りをして勢いよく立ち上がった


「よし!行くぞ!」

「え…?行くって一体どちらに…」

「すぐにわかる」


ニッと白い歯を見せて悪戯に笑う御屋形様


ついてこいと言わんばかりに馬を走らせ辿り着いたのは…







「こっ…ここは…!」

「ここならお前の勉強にもってこいだ」


夜だというのにも関わらず、男達がごった返して

まるで檻のような部屋に閉じ込められた、きらびやかな女達がじっと座っている


(はっ…花街…)



「好きな女を選べ!」

「すすす、好きな女と言われましても…その…話したこともないのに好きかどうかなんてっ!」

「馬鹿。本当に好きになる必要はねえだろ。見た目で好きな女を選べと言っているんだ」

「み、見た目…」


ザッと見回してみても皆が同じような顔をしていて、まるで差のつけようもない


オドオドとしている俺に痺れを切らした御屋形様が店の者に耳打ちをしている


「今、店一番の上等な女が来るぞ!」

「えぇぇっ!?まだ選んでおりませんが…」

「お前のことだ。選べと言っても軽く十年はかかるだろう」

「はあ…そうかもしれませぬ…」


的を得た御屋形様の指摘にガクリと項垂れていると、フワリと香の香りが鼻についた



「お待たせしました」



(これが…花魁…?)












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