恋乱LB V

□もしも願いが叶うなら
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(と思いきや…)


「馬鹿なの?阿呆なの?どっち」

「どっちも選びたくないです…」

「じゃあ馬鹿ってことで」


夕方菊姫様と城下へ繰り出した私は、訳のわからない男に絡まれていたところを才蔵さんに助けられて今に至るー…


「お前も一応女なんだから、振る舞いには気を付けなよ」


(うう…返す言葉もない…)


助けたお礼と奢らされた団子をはむはむと頬張りながら

呆れたように溜め息をつく才蔵さん


「すみません…」

「全く…つける薬もないね」


"薬"という言葉にピクンと反応する


「でもくれたじゃないですか…金創膏…」

「………」

「才蔵さんがくれたんですよね?私の帯に仕込ませて…?」

「…………」


才蔵さんは何も言わずにクルリと背を向けて歩き出した

彼の無言は肯定を表している


最近わかってきた



「ふふ…やっぱり…」

「…それつけて、ついでに馬鹿も治しなよ」

「はーい」


いつもは腹立たしい才蔵さんの軽口にも今日は腹が立たない


少しずつ知っていく彼の意外な一面



団子が好き

結構疑り深い

適当そうに見えて実は真面目

他人には冷たい言い方をするけれど…

でも本当は優しい



(…変なの)


私、才蔵さんの意外な一面を見られる度に嬉しいなんて思ってる

あんなにもムカついていたのに、今は嫌味でさえ可愛い…なんて


「本当に馬鹿になっちゃったのかも…」


私の呟きは誰にも聞かれることなく、宙に浮いて消えたー…













清次郎の動向を探るために、たまたま頼んだだけ

来たばかりの女が丁度良かったから


別に見守っているわけじゃない



「清次郎様、草むしり終わりましたよ」

「ありがとうございます」


(…嬉しそうに笑っちゃって)



木の上に腰掛けながら、仲睦まじく庭いじりをする二人を眺める


名無しさんに清次郎の調査を頼んだ時から、こっそり名無しさんを見守ることが日課になった


ふと指を舐められた時の彼女の表情を思い出す


顔を真っ赤に染めて、清次郎の舌が動く度にピクリと体を震わせ…


(ちょっと舐められただけで、そんな反応しないでよね…)


あれを見たときに沸々と沸き上がった感情は何なのか…


彼女と清次郎が進展していくのが気に食わなかった


それは今も…


「名無しさんさん、また素敵な付き人がついてますよ」

「わっ…ありがとうございます」


名無しさんの肩についた虫をそっと摘まんで、ポンポンと肩口を払う清次郎


(ムカつく…)


彼女に気安く触る男が許せない

俺の気持ちはそこまで膨らんでいて、自分でもやるせないこの思いを持て余していた


「名無しさん」

「!才蔵さん…」

「幸村が呼んでる」

「あ…わかりました。清次郎様、一回抜けますね」

「いいですよ。もう大体終わったので、行ってらっしゃい」

「行ってきます!」


(夫婦じゃあるまいし…)


「…こっち」


後ろからテクテクと何の疑いもなくついてくる名無しさん

幸村が呼んでいるだなんて、勿論嘘だけれど

清次郎の近くでそれを言ってしまえば疑われる


間もなく辿り着いたのは俺の部屋の前

不思議そうに首を傾げる様子が気配でわかった



「才蔵さん?幸村様はどこに?」

「…何のこと」

「何のことって…幸村様が呼んでるって才蔵さんが…」

「そーだっけ?」

「…じゃあ何も用事はないんですね?」

「…今日の調査はこれまで。それだけ」

「まだ調査続けるんですか?」

「…まあね。なかなか尻尾出さないし」

「そもそも尻尾なんてないんじゃないですか?全くの白かも…」


そんなわけない

あの男は黒だということを、ほぼ確信している

俺が一歩踏み込めば簡単に捕らえられるのに何故…


どうしてそれをしないのだろう?


ふと自分自身への疑問が浮かんだ



「もう調査なんてやめにしてしまえば…」

「やめない」

「…何故です?」

「…清次郎に情が移ったの?」

「はい…?」

「お前、本当にあの男が幼い頃に団子をあげた相手だって思ってるわけ?」

「…だって…っ妹さんが亡くなって…」

「妹が死んだって証拠でもある?そもそも妹なんていないかもよ?」

「…でもいたかもしれないじゃないですか」

「お前は簡単に人のこと信用しすぎ。だから京から甲斐まで奉公に出される羽目になったんじゃないの?」

「それはっ…」

「大体、軽い身辺調査を頼んだだけなのに普通あんなに近付く?危機感無さすぎ」

「っ…」


やってしまった

咄嗟にそんなことを思った










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