恋乱LB V

□キミ以外知らない
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「うむ!やはり名無しさんの作った飯は美味い!」

「ふふ…ありがとうございます。たくさん食べて下さいね」


ガツガツと豪快に飯を掻き込む幸村の隣で、静かに箸を進める


まあ、幸村の気持ちもわからないでもない

確かに名無しさんの作る飯は美味い


「うぐっ…!」

「あっ…幸村様!お水を!」


(だからって喉に詰まらせるほど頬張らないけど…)


「げほっ…は…む?何だ才蔵、その冷めた目は」

「別に」

「まあまあ、どうぞ幸村様」

「あ…すまない」


己の主が自分の想い人と夫婦のようなやり取りをするのをじっと見つめる


この前までは感じなかった嫉妬


しかし肌を重ね合わせた仲である今は、少しだけ違う感情が入り混じる



(これが嫉妬か…)



モヤモヤとした言葉では言い表せない感情


いい気持ちではない


暗い闇のような思いが胸を支配していく


「才蔵さん?」


名無しさんが持っていた湯呑みを奪って、幸村に飲ませた

ドンドンと背中を叩くと尚も咳き込む


「いてっ!痛いぞ才蔵!」

「喋ったらまた詰まるよ」

「ったく…何だってんだ…」


ブツブツと文句を言いながらも、受け取った湯呑みに口をつける幸村



「本当よねぇ。仮にも主って方に…本当に失礼なんだから才蔵は」

「まあ、今に始まったことではないがな…ってえぇ!?」

「雪さんっ!?」

「雪殿!いつの間に…っ!」


ちゃっかり名無しさんが作った飯を食いながら目を細めて笑う雪


幸村との絡みに気をとられて気が付かなかった



「何しに来た」

「やあねぇ。殺気立っちゃって…その後どうなったか様子を見に来ただけよ」

「雪殿!名無しさんに毒を盛るのはもう止めて頂きたい!」

「そんなことしに来たんじゃないわよ」

「雪さん…」

「ごめんね名無しさんちゃん」

「いえ…」


名無しさんを庇うように背中に隠し、じっと雪の顔を見入る

しかし雪は微笑みを崩さず、何を考えているのかは勿論わからない


俺より感情を隠すのが上手な雪からは何も読み取れなかった



「もう一度聞く。何しに来た」

「だから様子を見に来ただけ。元気そうで良かったわ」

「なら帰れ」

「実の弟だってのに冷たいわね…それより名無しさんちゃん。手が痺れる感覚が残っているんじゃない?」

「え…どうしてそれを…」

「やっぱりね」

「どういうことだ」

「あの仮死薬は筋力の少ない女性なんかが使うと、手足に痺れが残ることがあるのよ。ま、毒が完全に抜ければ治るけど」

「あ…そうなんですか」

「解毒剤を持ってきたわ。これを飲めばすぐに治るわよ」

「わ…ありがとうございま…」

「待って」


雪から受け取ろうとした薬をサッと奪い半分ほど口に流し込んだ


「さ、才蔵さん?」

ゴクリと湯呑みに入っていた水で流し込み、毒味をすると…


「っ!」

「やると思ったわ。本当の解毒剤はこっち」

「えぇっ!?じゃあ才蔵さんが飲んだのはっ…」

「ふふっ…毒じゃないから安心して。ちょっと面白いものが見れるわよ」

「さ…才蔵…大丈夫か…?」


目の前がグルグルと回る

心配そうに顔を覗き込む幸村と名無しさんの顔が幾重にも重なって見えた



「才蔵さん!しっかりして下さい!」

「ねぇ、才蔵。名無しさんちゃんと繋がったのはいつ?」

「…一週間前」

「え゛っ!?」

「ななな…何を…雪殿!」

「へぇ…最近なのね。気持ちよかった?」

「死ぬほど…」

「ちょっちょっと才蔵さん!」

「ま…まさか…才蔵が飲んだのは…」

「ふふ…そう、自白剤」

「じは…くざい?」

「聞いたことには正直に何でも答えてくれるわよ。半分しか飲まなかったから効力時間は短いけどね」

「何でも…」



水の中にいるように皆の声が遠巻きで聞こえる


(やられた…)


ぼんやりとそんなことを考える


しかし雪が調合した強力な自白剤は、薬が抜けるまでどうにもならないことを、俺がよく知っていた


「水…ちょうだい」

「は、はいっ!」


バタバタと水を取りに行った名無しさんを目の端で追いながら溜め息をつく


「はあー…ほんとお前が来るとロクなことがない…」

「あら、本心が聞けて嬉しいわ」

「…早く帰れ」

「さ…才蔵は普段から割りと素直だったんだな…」

「じゃあ、ゆっきーのことはどう思ってるの?」

「おっ…俺!?」

「…信頼している。俺の背中を預けらるのは幸村だけ…」

「才蔵っ…!」










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