恋乱LB

□たしかなこと
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吸い寄せられるように、唇を寄せて今度は深い口付けをする







音を立てても雨の音にかき消されて二人以外には聞こえない







まるでこの世に俺達しかいないみたいだ




静かに名無しさんの体を褥へと押し倒したー…



















その日、深く激しく愛し合った俺達はそのまま泥のように眠った

























眩しい光を感じて目を覚ますと、雨上がりの朝陽が部屋に差し込んでいる





抱き合ったまま眠ってしまったらしい




胸の中で静かに寝息を立てている名無しさんの頭に口付けを落とすと、長い睫毛が揺れてゆっくりと瞼を持ち上げる









「おはよ」


「ん…おはようございます…あっ!」





ガバッと勢いよく起き上がり、外の様子を見てホッと胸を撫で下ろした





「雨、上がったんですね…」


「みたいだね」





隣に立ち、外を見ると柔らかな陽射しが濡れた景色を明るく照らしている








何て美しい光景なのだろう









隣に彼女がいるだけで、何気ない日常さえ、こんなにも美しく輝いている











「よかった…」


「何が?」





「これで才蔵さんも屋根でお昼寝できますね」



ニッコリと笑ったその顔は、朝陽に照らされていつも以上に眩しく見えた





「…お前さんと一緒にね」





ポンポンと頭を撫でると照れたようにはにかんで、コクリと頷く






「あっ!やっぱりこれのお陰ですかね?」






名無しさんの指差す方向に目線を向けると、不格好な白い人形が軒先に吊られていた





(いつの間に…)





「やっぱり効果ありましたね。てるてる坊主」





背の小さい名無しさんが精一杯背伸びして、奇妙な人形を吊るす姿が目に浮かぶ




想像すると、愛しくて可笑しくて笑いが込み上げた






「相変わらず珍妙な人形だね」


「あっ!笑わないで下さい!この子のお陰で雨が上がったんですから!」


「どーだか」




爽やかな風に吹かれて、フラフラとなびく人形をそっと軒先から外す





すると何やら文字が書かれていた











"才蔵さんとずっと一緒にいられますように"









小さく書かれた名無しさんの願い









「…七夕じゃないんだから」


「あっ!見ないで下さい!」


「ちなみに聞くけど、この人形の顔って俺のつもり?」


「そうですよ!なかなか上手だと思いませんか?結構似てると思うんですけど…」



吊り上がった目元と少し弧を描いた唇



本人は自信満々だが、どう見ても悪意があるとしか思えない






「…佐助より酷いね」


「っ!それってどういう意味ですか!」





二人でじゃれ合いながら部屋に戻ると、てるてる坊主とやらを大事に懐にしまい込んだ














(ずっと一緒にいられますように…か)











切なくて儚い願い





人の命はいつか消えてしまうものだから


誰よりも人の死を見てきた自分が、こんなことを思うのはおかしいかもしれない





だけど願わずにはいられないんだ









その夜、懐にしまっていた人形を取り出すと、名無しさんの小さな願いの横に筆を走らせた














"生まれ変わっても一緒にいられますように"







時を越えても、二人一緒にいたい





同じ風を感じて、同じ時間を過ごしたい






一つだけ、たしかなことは名無しさんを愛しているということ








今のようなありふれた日常がずっと続くように











冬の澄んだ夜空を見上げて、終わらない幸せを願ったー…





























End
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