怪盗X

□夢の続き
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「もう、何なんですか急に…恥ずかしいったらありゃしない…」


目的のイタリアンレストランに辿り着いて席に着くと、俺は何故だか満足したようなホッとしたような…

とりあえず機嫌はすこぶるよくなった


「カモノハシ君に何て説明すればいいんですか…絶対誤解しましたよ…」

「んなもん適当に言やぁいーだろ」

「適当って…お兄ちゃん?とか?」

「ぶっ!!ゴボッ!ゲホッ!!」

「あー!もう!何してるんですか!汚ったない!!」

「ちょっ…おま…汚ったないって…っ!ゲホッ!」

「ほらほら、落ち着いて下さい」

背中をトントンされながら息が整うのを待つ

(そーいや最近は柳瀬じゃなくてコイツにトントンされるのが日課になったな…)

それだけコイツと一緒にいるということか…

それなのに…


「お兄ちゃんって何だし…」

「ん?何か言いました?」

「別に」

プイッと顔を背けてふてくされると、名無しさんは怪訝な顔をしながら元いた席へと戻った

(子供か俺は…)



"お兄ちゃん"の回答に微妙に傷付いた心


じゃあ俺は何て言って欲しかったんだ?

毎日頭の中を占める名無しさんの顔


答えはもうわかっている


ただ素直になれないだけ




「ばーか…」

「え?何ですか急に!」

「別に…」

言いたい

けどコイツの答えを聞くのが怖い

俺はこんなに臆病だったのか?

もし、コイツに他に好きなやつがいたらとか、俺のことをそういう対象として見ていなかったらとか

そんな嫌な考えばかりが過ってしまって


「拓斗さん?」



不思議そうに首を傾げる名無しさんに、つい八つ当たりしたくなる


(ってか少しくらい気付けよバカ!)


「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」

「ちょーーー悪い」
(機嫌が)

「そうですか…じゃあ帰ります?」

「は?食わねぇの?」

「いや…具合悪いなら無理しない方が…」

「悪くても食うし。早く選べよ」

「えー…じゃあ〜…」

「「カルボナーラ」」

「………」

「………」

二人で静かに視線を交わすと、先に笑ったのは名無しさんだった

「また被った!」

コロコロと笑う姿は小さな華がパアと咲くように可愛らしくて

だけどそんな恥ずかしいことを素直に伝えられない俺はただ俯くしかなくて


自分の性格を恨みながら、あっという間にランチタイムを終えたのだったー…




























「はあ…」

午後20時にもなろう頃

辺りはすっかり暗くなって冷たい秋風が体に吹き付ける

今日は黒狐に寄る気分でもないし、直帰を決め込んでいた俺は家へと足を進めた

街は腕を組みながら歩くカップルや、仕事帰りのサラリーマン

様々な人の波を避けてボーッとしながら歩く

(あー疲れた…)


ない事に色々なことを考えたからだろうか?
頭も体もひどく重い

今日は特にやらなきゃいけないこともないし、BFの活動もない

(さっさと帰ってシャワー浴びて寝よ…)


遠くにようやく家が見えてきた


ボーッと家の方向を見ながら歩いていると家の前に誰かが立っているのに気がつく

近づくにつれ、俺の足も段々と速まっていった


(まさか…)













「あっ拓斗さん!お帰りなさい!」

「おま…何やってんの?」

嬉しい筈なのに、天邪鬼な俺の口はつい心とは反対のことを言ってしまう

もっと素直になれたらいいのに

ほんとは会えて嬉しいくせに


「何か待ち伏せしたみたいでごめんなさい…今日お昼に具合悪いって言ってたんで、これ渡そうと思って!」

ヒョイと差し出された紙袋の中には、風邪薬と漢方薬が入っていた

「わざわざこれ渡しに来たわけ?」

「はい!風邪はひき始めが肝心ですから!」

受け取った時に触れた手がひどく冷たくなっていて思わず体がビクッとする

(どんくらい待てばこんな冷えるんだよ…)

いつ帰るかもわからないのに

電話でもしてくれりゃいーのに


もう何だかわけがわからなくなるほどコイツが愛おしくって

ギュウと心臓を掴まれている感覚が走って


「拓斗さん?」





「ごめん…ー」










名無しさんの「んっ…」って言葉が俺の口の中で聞こえた








名無しさんとの初めてのキスはお互い冷たくなった唇が妙に心地よくて



夢の中の延長みたいで



頭の芯からボーッととろける





















「俺…お前のことが好きだ」















夢の続きが現実になるー…




















END


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