怪盗X

□聖なるX'mas
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"会いたくない"


拓斗さんに対してそんなことを思うのは初めて

けれど今、別れを告げられたらこの先一生イブに辛い思い出が甦る

(そんなのイヤ…)

気付くと体が無意識に動いて、携帯を操作していた



"会いたくないです"




(送っちゃった…)


フゥと溜め息をついたと同時に携帯が着信を告げる

見なくてもわかる

きっと拓斗さんだ


震える手で確認すると、やはり"拓斗さん"の文字


敢えて気付かないふりをした

切れては、また着信を繰り返す携帯


まるで急かすように、追い込むように鳴り続ける


私は素早く電源を切って、漸くホッと胸を撫で下ろした



ごめんなさい…拓斗さん…






ピンポーン♪


その時、玄関のチャイムが鳴る

誰だろう…?

こんな時に…

溜め息をつきながら、誰か確かめるためそっと覗き穴に顔を近付ける



「っ…!たく…!」


不機嫌そうな顔をした拓斗さんが立っていた

(ヤバ…!声出しちゃった…)


「いるんだろ…オイ…」

そう言った拓斗さんの声は、怒りを隠せないのか相当頭にきているらしい

(こっ…怖い!輩かっ!!)


このまま居留守を使うか、素直にドアを開けるか…

一生一大の選択を迫られる

でも居留守を使ったとしても、怪盗道具で鍵を開けられたら意味がない

今チェーンをかけたら、絶対音でバレるし…


(どっ…どうしよう…)


足音を立てないよう、そっとドアから離れ、玄関から一番遠いと思われるお風呂場で携帯の電源を入れると、拓斗さんに電話をかけた

コールを始めてすぐに繋がった電話

拓斗さんの不機嫌な声が受話器から響く


「早く開けろよ」

「えっと…私今日急に仕事が入っちゃって…い…家にはいないんです!すみません…」

「仕事…へぇー…」

「か…っカモノハシ君がインフルエンザにかかったみたいで…明日も出勤しなきゃいけなくなって…ほ、本当に参っちゃう!あ…はは…」

「…そーか…」

「あ、あの…なので私もしばらく忙し…」





「見つけた」





ガチャリとお風呂場のドアを開けたのは、さっきまで外にいた拓斗さん


携帯を耳に当てたまま、ドヤ顔で私を見下ろす拓斗さんに思わず携帯を落とした



「な…何で…」

「何でじゃねーし。怪盗舐めんな」

やっぱり怪盗道具で開けたんだ…

チェーンかけとけば良かった…


「…本当に私がいなかったら、どうするんですか」

「は?最初からいるってわかってたし」


ヒラヒラと携帯を持ってニヤリと笑った拓斗さんに、ハッと息を飲んだ


「GPS…」

「そういうこと」

初めて会ったその日に細工された携帯

すっかり忘れてた…



「…つかお前会いたくねーとか、どういうことだよ」

「っ…じ、自分の胸に聞いてみたらどうですか!」

「は?意味わかんねー…何拗ねてんの」

「……知りません…」

拓斗さんを押し退けるようにお風呂場を出ようとすると、パシッと手を捕まれる


「っ!」


その手の冷たさにギクリとした

(私が外で待たせちゃったから…)


「…言いたいことあるなら、ちゃんと言えよ…」

不安が混じった消え入りそうな声

拓斗さんを見上げると、辛そうに顔を歪めている


「ど…どうして…そんな顔するの…」


泣きたいのはこっちなのに

別れを告げられるくらいなら、会いたくなかった


拓斗さんがそんな顔するなんて、狡い


涙が溢れた


「くっ…ふぅ…」


我慢出来ずに涙を流す私を、何も言わずにそっと抱き締めてくれる拓斗さん

その体は冷たくて、でも温かい


時々漏れる嗚咽が響くお風呂場で、私達はただただ抱き締め合ったー…





























「どうぞ…」

お揃いのマグカップに淹れたコーヒーを何も言わずに二人で啜る

私が話すのを待ってくれてるんだろうか?

拓斗さんは何も聞いてこない

ゴクリと温かいコーヒーを飲み込んで気持ちが落ち着いてきた私は、自分の気持ちと、日曜日に見た光景を拓斗さんに話す覚悟を決めた




「あ、あのですね…」

コーヒーを啜りながら、チラリと視線だけを持ち上げた拓斗さん

やはり私から話すのを待っていたらしい




「見ちゃったんです…私…」


「…何を?」








「拓斗さん、浮気してますよね?」









「…………は?」























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