恋乱LB V

□紙一重の入れ知恵〜清広目線〜
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彼女の笑顔は万物を照らす太陽のようだ

初めて会った時に感じた印象


柔らかい雰囲気は周りの人間を癒すかのように温かく、そして優しい




「才蔵さん!」



(……………)


彼女と一緒にいるときの才蔵さんは今まで見たこともないくらい柔らかい表情で笑う

誰が見ても名無しさんさんを大切に思っていることは一目瞭然だった


俺はただ、そんな二人を遠くから眺めるだけ

見守るだけ…







「才蔵さん、これを」


族長から預かった密書

才蔵さんに差し出すとあからさまに嫌そうな顔をして、乱暴に受けとる


「……………」


内容は大体予想がつく

最近サボり気味の任務に不信感を抱いた族長からの呼び出しだろう


名無しさんさんと出逢ってから才蔵さんは、明らかに変わった


まず誰よりも任務主義だった筈が、全く興味が無くなったかのようにパタリと辞めてしまい、里からの呼び出しにも応じなくなった


そして一番変わったことは…



(よく笑うようになった…)



今までの機械的な笑顔ではなく、人間らしい笑顔


それがどれだけ凄いことか、ずっと見てきた者にはわかる

昔の才蔵さんから見たら、信じられない程に変わったのだ


そしてそれが全て名無しさんさんの影響だということも知っている



だから俺としては彼女を遠ざけたかった


人としてはいい影響かもしれないが、忍としては悪影響でしかない彼女を…



「はあ…」


才蔵さんは密書にザッと目を通すと、ビリビリと破り捨てる

爽やかな風が散り散りになった紙切れをさらっていく


「…そろそろ行かなくては危なくなりますよ」


"名無しさんさんが"

暗にそう言うと才蔵さんは鋭い眼差しで俺を睨み、フッと諦めたように笑った


「…すぐ戻る。護衛よろしく」

「御意」


小さな旋風を残して消えた才蔵さん



「才蔵さーん」



居なくなってすぐに名無しさんさんの叫び声が聞こえたのだったー…














「才蔵さんならいませんよ」

「きゃっ!!」


後ろから声をかけると、大きく肩をビクつかせて驚く名無しさんさん

手にしていた盆が傾き、大量の団子が乗った皿が落ちる寸での所で掴まえる


「あ…あれ?ない…」

「ありますよ」


驚き振り返った名無しさんさんはホッとしたように溜め息をつく


「ありがとうございます」

「いえ…」


その後、誰もいないと知った名無しさんさんの提案で二人並んで団子を食べることになった


(美味しい…)


初めて食べる名無しさんさんが作った団子は、ほんのりと甘く柔らかい

そして何よりも優しい味が口一杯に広がっていく


才蔵さんがこればかり食べる気持ちがわかったような気がした


「清広さんは甘いものお好きですか?」


正直言えば、あまり好きではない

というか口にすることがないといった方が正しいだろう


「好きか嫌いかで食べることはないので…」

「好きか…嫌いか…?」


何を言っているかわからないという風に首を傾げて不思議そうな顔をする


「栄養があって、手軽に食べられるものばかりで済ませてますので…」


忍であれば大体はそうだろう


才蔵さんは好きなものがハッキリしているが、俺は何を好きかと問われても、これといって答えられるものはなかった


毎日同じような物ばかり食べているし、かと言って飽きたなどと言ってもいられない

それが当たり前で普通のことだと思っていたから…


「清広さんが好きなものは何ですか?」

「は…」


色々な物の味を知らない俺には、何が好きかなんてわからないが…


一つだけ"食べてみたい"と思っていたものがあったー…



「…きな粉餅ですかね」

「きな粉餅…?」



食べたことなんてないけれど

以前誰かが食べていたのを見て、美味しそうだと思ったことが頭を過る


意外だとでも言わんばかりに目を大きくさせると、ニッコリとまた太陽のような笑顔が浮かんだ


「では明日は一緒にきな粉餅を食べましょう!」

「楽しみにしてます」



そうして、あんなにも大量に積まれていた団子の最後の一串を頬張ったのだったー…












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