恋乱LB V

□袖振り合うも多生の縁
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「あぁあぁああっ!!俺は一体どうすればよいのだ!!」

「うるさいよ幸村、何事?」

「どうされたんですか?幸村様」


揚げたてのどうなっつを頬張りながら、叫ぶと二人が不思議そうな瞳を向けた


仲良く隣に並んで縁側に腰かける才蔵と名無しさん


まあ、いつものことではあるがその距離は近い


(人前でそんなベタベタして、恥じらいというものはないのか…)


今でこそ慣れたものだが、才蔵の隣には名無しさんがいて

名無しさんの隣には才蔵がいて…


二人で一つのようなものになっていた



「才蔵…お前はいいな…」

「は?」

「既にこれからの人生を共に生きていく伴侶がいるんだもんな…」

「どうしたの急に」

「何かあったのですか?」

「あ…ああ、実は…」










「嫁…ですか」

「ああ、そろそろお前もそういう歳だろう」

「し、しかし俺は…御屋形様に全てを捧げた身!今更嫁、子供など…」

「馬鹿。俺の直臣だからこそ嫁御をもらえと言っているんだ」

「…は…それはどういう」

「武田はこれからも終わらねぇ。しかし俺達もいつかは死ぬ。後世に残したいのなら、まず子を為さねぇことには話にならんだろう」

「し、しかしそれは真田家の長男の役目ですし…」

「信幸のところに男が出来なかったらどうするんだ?」

「そ…それは…」

「子供は多いに越したことはねぇ。お前も頑張ってみろ」

「はっ!仰せのままに…」
 
「ま、だから最初は女を探すところからだな!お前に良さそうな見合い話でも探すか!」

「み…見合い…」









「…というわけなんだ」

「お…お見合いですか…」

「ふーん。いんじゃない」

「こら才蔵っ!適当なこと言うな!」


心配そうな瞳を向ける名無しさんとは対称的に、才蔵はさして興味無さげに欠伸をしながら答えた


「全く…他人事だと思って…」

「でも信玄さんに言われたんなら、どうせ断る気はないんでしょ」

「う…まあ、そうだが」

「なら、ここで泣き言いっても仕方ないんじゃない。頑張れば」

「おい!冷たすぎるぞ才蔵!」

「まあまあ…いつものことじゃないですか」

「何それ。お前さんに言われると傷つくねー。昨日もあんなに優しく手解きしてあげたのに」

「なっ…!」

「昼間から破廉恥だぞお前は!そ、それに名無しさんとの距離がちち、近い!」

「…別に普通だけど」

「ふ、普通じゃないだろう!触れてしまいそうな程に近い距離は…!」

「…それを言ったら幸村とも近いけど」

「男と女は別なんだ!」


ずっと聞いていた名無しさんが肩を揺らしてクスクスと笑う


「ふふ…幸村様は純粋で可愛らしいですね」

「なっ!可愛いなどっ…!」

「でもそこが幸村様の素敵なところだと私は思います」

「す、素敵…」


手放しに褒められて、つい顔に熱が集まっていく


「はいはい。で、見合いの日取りは決まったの」

「あ、三日後なんだ…」

「三日後!?随分、急なお話ですね」

「ああ…いつ命を落とすやも知れない身だからな。なるべく早くというのが御屋形様の意向だ」

「なるほどね。信玄さんらしい」


納得したように才蔵が笑う


「そこで是非お前達に頼みがあるんだ」

「やだ」

「こら!即答するな。最後まで聞け!」

「私達が出来ることならば何でも協力します。何でしょう?」

「その…女子の扱い方というか…どう接すれば良いのかとか…そういうのを勉強させて欲しいんだ!」

「…つまりどういうこと」

「お前達の様子を見学させてくれ!勿論、俺はいないものとして扱ってほしい!」

「無茶言わないでよ。幸村にあげた恋愛指南書でも見て勉強しな」

「あれは全て頭に入れてある!あとは…その実践というか…現場を見て勉強してぇんだ!」

「現場って…」



この通りと頭を下げた俺に、才蔵の溜め息と名無しさんの困ったような雰囲気が伝わってくる


やはり駄目かと諦めかけた時…




「…才蔵さん。幸村様がここまでお願いしているのですから…」

「……はあ…仕方ないね」

「っ!いいのか!?」

「ええ。私達がいつも通りでいることが、幸村様の為になるのであれば」
 
「ありがとう!!ありがとう名無しさん!!恩に着るぞっ!!」

「全く…どうしてお前さんは、そうお人好しなのかね。ってか幸村名無しさんの腕振りすぎ。飛んでくから」

「ああっ!すまない!つい嬉しくてな!」


才蔵はやんわりと名無しさんの肩に触れ、壊れ物を扱うかのように優しく抱き寄せる












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