恋乱LB V

□紙一重の入れ知恵
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「ふぅ…これでよし、と」


見事に茹で上がったモチモチのお団子を串に刺して一息つく


(才蔵さん…喜んでくれるかな)



毎日こうしてお団子を拵えるのは勿論、才蔵さんのため

才蔵さんに喜んで欲しくて、話すキッカケが欲しくて

最早、日課となった団子作り


幸村様や佐助君の分も入っているため、皿には団子の山が出来ている


(才蔵さん、どこにいるかな)


重たい皿を盆に乗せ、才蔵さんがいそうなところをウロウロしていると


「名無しさんさん」

「きゃっ!!」


不意に背中からかけられた声に驚いて盆がグラリと傾く


(落ちるー…っ!!)


反射的にギュッと目を閉じると、予想していた派手な衝撃音はいつまで経ってもしない



「あ…あれ…?」



ゆっくりと瞼を持ち上げ、手元に視線を落としたその時ー…



「…ない…?」

「ありますよ」


後ろを振り返ると、盆を片手に持った清広さんが立っていた


皿には私が盛り付けた通りの団子が山盛りになっている



「あ…ありがとうございます」

「いえ」


清広さんから無事、盆を受け取り安堵の溜め息をついた


「才蔵さんならいませんよ」

「えっ?そうなんですか?」

「族長からの呼び出しで里に帰っています」

「そうですか…あ、幸村様達は…」

「幸村様と佐助も城下へ行っていて今はいません」

「あ…そうなんですか…」


(せっかく作ったのになあ…)


まさかいつも食べてくれる人が誰もいないとは、予想外


あまり時間が経つと固くなるし、かといって捨てるのも勿体ない



「あ!清広さん、一緒に食べませんか?」

「…は…?しかし…」

「いいんです。早く食べないと美味しくなくなってしまいますし…それに三人にはまた作ればいい話ですから!お団子嫌いでしたか…?」

「…ではお言葉に甘えて」


素直に縁側にストンと座った清広さん

傍らに大量の団子が乗った皿を置くと、お茶をとりにその場を後にした



「お待たせしました!」


温かいお茶を清広さんに手渡すと、ペコリと小さく頭を下げてゆっくりとお茶を啜る


こうして清広さんと二人きりでお茶をするのは初めてだ


今のところ才蔵さんと同じくらい謎に包まれている清広さん


改めてじっくり見ると、女性のような美しい顔立ちにサラサラの長い髪の毛


(忍の人って皆容姿端麗なのかな…)


「…何か?」


じっと見つめすぎていたのか、清広さんが表情を変えずにグルリと顔をこちらに向けた


「あっ!いえ…ど、どうぞ召し上がって下さい!」

「では、頂きます」


清広さんは礼儀正しく両手を合わせると、団子をはむはむと頬張っていく


団子を食べるその姿さえも洗練されていて、美しい


「あの…お味の方はどうでしょうか?」

「…すごく美味しいです」

「良かった!ありがとうございます!」

「いえ…」


よく考えれば、清広さんが食事をするところを見るのも初めてかもしれない


「清広さん甘い物はお好きですか?」

「…好きか嫌いかで考えたことはないのですが…あまり口にすることはありません」

「…?好きか嫌いかで考えたことって…」

「栄養があって、手軽に食べられるものばかり食べているので」

「そうなんですか…ではお団子はあまり好きじゃないですか?」

「…名無しさんさんが作ったこのお団子は好きです」

「っ!ふふ…ありがとうございます」



澄み渡る真っ青な空に、時折鳥の囀ずりが響く長閑な午後


私達の間にそれ以上会話はないけれど、何だか謎に包まれている清広さんを少しだけ垣間見れた気がして嬉しくなった


あんなに山盛りになっていた団子があっという間に数を減らして

やがて串だけが何本も皿の上に転がる


「ご馳走様でした」

「いえ。私こそ付き合わせてしまってすみません」

「とても美味しかったです」

「ふふっ。それは良かった!料理人にとって、その言葉が一番嬉しいです!」


褒められてつい頬が緩む

清広さんは私に釣られたように少しだけニッコリと笑うと、すぐに視線を伏せて申し訳なさそうに呟いた


「…才蔵さんは明日も帰って来ないかもしれないです」


(そうなんだ…)


里一番の忍と謳われている才蔵さんが忙しくない訳がない

こんな時、私なんかとは住む世界が違うのだと、まざまざと思い知らされる


会えない寂しさに胸がチクリと痛みながらも無理矢理笑顔を作った


「清広さんが好きなものを教えてください!」












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