恋乱LB V

□キミ以外知らない
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名無しさんと初めて繋がったあの日


俺の身体は毎晩飽くことなく名無しさんの温もりを求めた


名無しさんもまた、それを拒否することなく、俺に全てを委ねてくれる



「ふ……」



隣で眠る名無しさんの横顔を見つめながら、ふと笑みが溢れた


顔にかかった前髪をよけてやりながら、その健やかな寝顔にじっと見入る



"才蔵さんと生きられるなら、死んでも構わない"



キッパリとそう言い切った名無しさん


わかっていたようで、全然わかっていなかったのは俺の方だったのだ


覚悟を決めていたつもりでいたのに、俺の覚悟は彼女に比べればちっぽけな物で

己の自覚の無さにほとほと嫌気が差した


一緒にいればいるほど気付かされることが多すぎて

今までの俺の人生は何だったのかと疑いたくなる程に驚きの連続で…




「っ…ん…」


コツンと額をつけて名無しさんと体温を分かち合う

 
この温もりだ…


欲しくて欲しくて堪らなかった


こうして肌を合わせることで一層強くなった愛しさ


もう二度と手放してやれないことを改めて実感した



きゅっと控え目に抱き締めると長い睫毛が震えて、大きな瞳が顔を覗かせる


「才蔵…さん…?」


(起こしてしまったか…)


「…まだ早いよ」


明け方までもう少しある

まだ薄暗い外に目線を送って、フワリと微笑んだ


「ん…」


俺の顔を見つめて、柔らかな手が頬を撫でていく


その顔は母親のように愛に満ちていて、思わず目を奪われた



「才蔵さんは本当に綺麗な顔立ちをしていますね…」

「…は…?」


何を言い出すのかと思えば…


今まで自分の容姿がどうこうなどと考えたことがなかった

自分が生まれ持った物について、不満もない代わりに満足しているところも特にない


というかそもそも無頓着で、気にしたことがない



「私には勿体ないくらい…格好いい…」


寝起きで呂律が回らない口調

寝惚けた感じが堪らなく可愛らしい



「何言ってんだか…」

 
名無しさんの言葉一つで昂る自身

今すぐ強く抱き締めてこの気持ちを名無しさんの奥深くに沈めたい


しかし今夜も欲望のままに抱いてしまったため、なるべく寝かせてあげたかった

気持ちを沈めるように深呼吸を繰り返す

(全く…)

人を愛するということは不自由だ

どうでもいい女なら、起こしてでも抱いたが

好いた女ならば、そうはいかない

大事にしたい


「今夜…覚悟しなよ…」


再び眠りについた名無しさんにそっと呟いて、瞼を閉じたー…





「お、名無しさん。今日から復帰か」

「おはようございます幸村様!その節はご迷惑お掛けしました」

「お前は巻き込まれただけだからな。気にするな」

「これから鍛練ですか?」

「ああ、これをしなければ調子が出なくてな…才蔵も今日くらい参加したらどうだ?」

「冗談」

「冗談ではない!本当は毎日やらなきゃいけないのだぞ!」

「鍛練は任務じゃないでしょ」

「全くお前というやつは…ん?名無しさん…顔色が優れないが、やはりまだ具合が悪いんじゃないか?」

「えっ!?そ…そんなことはないですよ!」

「そうか…?」

「ほら幸村。鍛練に行くんじゃなかったの?」

「ああ、そうだ。じゃあまた…ってお前もだ!」

「気が向いたら行くから」

「ふん…絶対に来いよ」


幸村の背中を見送って、洗濯物を干す彼女の姿を見つめる


華奢な身体で大きな袴をパンパンと叩きながら手際よく干していく手つきはさながら主婦だ


「……毎晩寝不足させて悪いね」

「え…?」


顔色が優れないのは寝不足のせいだろう


毎夜、一回だけでは足りない俺のせいで名無しさんにはかなり無理をさせてしまっている


自覚はあるのに、どうにも止められないのだ



(猿か…俺は…)



「ふふっ…」

「何笑ってんのさ」

「いえ…幸村様の言っていた通りだなって思って…」

「幸村が何言ってたの」

「才蔵さんが"真面目"だと」

「真面目…?」

「はい。私も最初は耳を疑ったんですが、最近になって漸く幸村様が言っていたことがわかってきたような気がします」

「耳を疑ったって…お前さんも言うようになったね」

「えへへ…すみません」

「俺は不真面目なつもりはなかったけど?」


真面目だったつもりもない


しかし幸村が言うのだから、そうなのかもしれない



「私と佐助君は驚いたんですが…やはり幸村様は流石ですね」


眉を下げて笑った名無しさんに微笑みを返すと、二人で笑い合った






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