恋乱LB V

□独りの夜
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満月が煌々と輝く夜


一人縁側に腰かけ溜め息をつく



「才蔵さん…」



今日で何日目だろう

もう二月程になる…

才蔵さんはしばらくの間任務から戻って来ていない


(どうか無事でありますように…)


もう毎日の日課となった静かな祈り


日増しに募っていく不安

安否が全くわからない日々を過ごしていたためか

近頃は才蔵さんのことばかりを考えて大好きな仕事さえも手につかない



今頃彼はどこで何をしているのだろう


そもそもどこへ行ったのかもわからない



「私って何にも知らないんだな…」



不安と寂しさと悔しさで胸が張り裂けそうだ

じわりじわりと涙が溢れてくる



(駄目っ…泣いたら…)



忍である才蔵さんとの恋


こんなこと…覚悟していたことだ


少し会えないだけで涙を流していたなんて才蔵さんが知ったら…



きっと呆れられる




「よし…大丈夫…絶対才蔵さんは大丈夫!」



何とか涙を堪え、自室に戻ろうと踵を返した















(才蔵さんのお部屋…暗い)



才蔵さんの部屋の前でぼんやりと立ち尽くす

これは戻って来ていない確かな証拠


暗い部屋がやけに寂しさを募らせる




「失礼します…」



中は当たり前だがシンと静まり返っていて、いつもの気だるげな返事は聞こえない


それでも僅かな望みを抱いて、スラリと障子を滑らせた




「…………」


(いるわけないよね…)


真っ暗な部屋の中


才蔵さんが出ていった日から時間が止まっているかのように何も変わっていない


寂しさに耐えきれず、部屋の行灯に火を灯して静かに座る



ちょっと前なら目の前にゴロンと横になった才蔵さんがいたな…

大量に作った団子を食べながら、お茶を飲んでたっけ…



目を閉じなくても浮かぶ才蔵さんの姿


先程我慢出来た筈の涙が再び込み上げて来る



「才蔵さん…」



せめて"無事"だと知ることが出来たなら、こんなに苦しむことはなかったのかもしれない


生きていると知れたなら…



才蔵さんは絶対に大丈夫と言い聞かせるのにも限界があった


そもそもこんなに城を空けたことのない彼が、何の知らせもないまま

二月も帰って来ないだなんて…


何かあったとしか思えなかった



「才蔵さん…どこにいるんですか…」



いつ戻ってもいいように毎日褥を敷いているが、勿論使った形跡はない


夕方私が敷いた時のままだ


(才蔵さんの匂いがする…)


褥からはまだほんのりと才蔵さんの匂いがする


誘われるようにコロンと褥に横たわると、才蔵さんの匂いに包まれているようで

すぐそこに才蔵さんがいるようで、少しだけ心が安らぐ



(私はここで毎夜…)


カッと頬が熱くなり、打ち消すようにブンブンと頭を振った


「何考えてるの私ってば…!」


思い出しても虚しいだけ

だって才蔵さんはここにいない


もう一度ここで才蔵さんと愛し合えることはあるだろうか?

もう一度抱かれることはあるのだろうか?


私には知る術もない



「早く…会いたい…」



ただこうして祈りを捧げる以外、何も出来ない自分がどうしようもなく惨めに感じたー…





















「お疲れ様です、才蔵さん」

「…………」


清広に返事もすることなく、刀にベットリとついた血を払うように刀を振る


大きな金が動いた今回の任務


前々から下準備していた大きな案件が、今夜この瞬間片付いた


そして思ったよりも早く片付いたのは、俺の頭の隅に…

いや中心に常に存在する彼女が全ての原動力となっていた


ここ二月ほど、名無しさんに会っていない


「漸く帰れますね」


俺の思いに気付いたのか、清広は煌々と輝く満月を見上げながらそう呟く


(満月…ね)



彼女は今頃スヤスヤと眠っている頃だろう


それか、いつまで経っても戻らない俺を心配して泣いているかもしれない


「それよりアレ、受け取って来てくれた?」

「はい、ここに」

「ありがと」


手渡された小さな小箱


今回の任務を受けたのはこのため


そして漸く、長い夜の生活に終止符が打てるのだ


「本当に宜しいのですか?」


遠慮がちに視線を伏せて、そう訊ねる清広


「…お前はどう思う?」


試すような口振りで、清広を見やる

するとグッと一瞬言葉を詰まらせてから、ゆっくりと口を開いた












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