恋乱LB V

□彼と彼女の真実
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「今日の夕げは何にしようかな〜…」

「名無しさん買い物か?」

「はい。今日の夕げの買い出しに」

「そうか…困ったな…ついて行きたいところだが、俺はちょっと手が離せねぇし、佐助は昼寝してるし」

「そんなに荷物もないので一人でも大丈夫ですよ」

「しかし、才蔵のいないときに何かあったら…」


才蔵さんは任務で二日程、城を空けている

いつ帰ってくるのかはわからないが、きっと今夜も帰らないだろう


困り顔の幸村様に胸を張って安心させるよう笑顔で答える



「大丈夫ですよ!すぐ終わりますから!心配しないで下さい!」

「そうか?悪いな…じゃあ気を付けるんだぞ!」

「はい!行ってきます!」


お優しい幸村様に見送られて、私は元気に城を後にした



(もしも才蔵さんが帰って来たときのために、お団子も一応用意しておこう…)


今晩の献立を考えながらも、やはり行きつく先は才蔵さんのこと

最早、日課となってしまった団子作り


団子屋さんが開けるんじゃないかというくらい、色々な種類のお団子を作ってきた


それもこれも、全ては才蔵さんがいてくれるから


"美味しい"って食べてくれる人がいるから


才蔵さんのことを考えていると、自然と笑みが溢れる



「今日は帰って来てくれるといいなあ…」



そう呟きながら、城下へと下りていったー…














(今日は春の野菜をたくさん使ったかき揚げにでもしようかな)


早くも献立を決めた私は手際よく、ポイポイと目当ての野菜達を買っていく

そして才蔵さんが帰って来たときのために、小豆も購入してから

早めに城に戻ろうと急いだ



人気のない城への道

パタパタと小走りする私の足音だけが響く



「名無しさんちゃん」


フワリとした艶のある声

弾かれるように後ろを振り返ると…



「雪さん!蛍君も!お久しぶりです」

「こんにちは」

「……………」


才蔵さんのお姉さんである雪さんと、弟の蛍君

相変わらず雪さんの口許は綺麗な弧を描いていて、ニッコリとしたまま私の元へと近付いてきた



「お買いもの?」

「はい!今日の夕げの買い出しに」

「そう。それは楽しみね」

「雪さん達はどうしてここに?」

「実は貴女に用があって来たの」


申し訳なさそうに眉を下げる雪さん

雪さんが私に用があるなんて…

才蔵さんのこと以外に考えられない


もしかして任務中の才蔵さんに何かあったのでは…

嫌な予感が胸を掠めて、青ざめていくのがわかる

震える唇を開いて、漸く言葉を紡ぎだした

「もしかして…才蔵さんに何か…?」

「ここじゃちょっと…蛍」

「…?」

「眠れ」

「ぅ…蛍…く…」


蛍君の声が聞こえたかと思うと、そのまま私は意識を手放したのだったー…






















二日ぶりに帰って来た邸

そそくさと忍装束からいつもの着物へと着替えると、ゴロンと横になる


外は陽が落ちはじめて、夕陽が綺麗に空を赤く染めていた

そろそろ夕げの時刻


名無しさんが俺の部屋を訪れる頃だ


早く会いたい


俺の姿を見たら名無しさんは顔を綻ばせて嬉しそうに笑うのだろう


目を閉じてそんなことを考えていると、バタバタとうるさい足音が聞こえて

スパンっと勢いよく部屋の襖が開かれた


「名無しさん!!いるかっ!!」


汗だくになりながら、俺の姿を見て驚く幸村


「名無しさんならいないよ。どうしたのさ」

「才蔵っ!お前、帰ってたのか!?」

「ついさっきね」

「お前っ…帰ってたなら報告に来るのが筋ってもんだろ…!」
 
「どうせもう少しで夕げの時間でしょ」

「そういうことじゃなくてだな…って!それどころじゃなかった!」

「何?どうしたの?」

「名無しさんがいなくなったんだ!」

「炊事場じゃないの」

「違う!城にも帰って来ていない!昼間買い物に出かけてから…」

「買い物…」


体の熱がスーと引いていくのがわかる

血の気が引くというのは、正にこのことだろう


「城を出てからどのくらい経つ」

「あれは昼げが終わってすぐだったから恐らく…あ!おい、才蔵!」


幸村の声を遠くで聞きながら、城を飛び出した

昼が終わってすぐに出かけたのなら、すでに結構時間が経っている

そしてあの女は不用意に心配などかける女ではない


名無しさんの身に何かあったのは誰の目から見ても明白だった












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