恋乱LB V

□パパの行方
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「お姉ちゃん、手繋いで?」

「ふふ。はい、どうぞ」

「お姉ちゃんだいすき!」

「私も大好きだよ」

「……………」


目の前で繰り広げられる茶番劇に一人溜め息をつく


子供と手を繋ぐ名無しさんはこの上なく幸せそうで

柔らかな笑みを浮かべながら繋いだ手にきゅっと力をこめたのだった














「才蔵ーっ!!」

「朝からうるさいよ幸村、何事?」

「ちょっと来い!!」


朝から何やら騒々しい幸村に引き摺られながら、広間へと向かう


「ちょっと…何なのさ」

「いいから!」


訊ねても答える気はないようだ

しかし幸村の焦り方から見てただ事ではない…ということはわかる


(ま、行けばわかるか)


さほど気にせず幸村の後をついていったー…












広間にはポカンと呆気にとられたまま座る佐助と名無しさん


そして見たことのない子供


その子供は俺達に気付くとパアッと顔を輝かせて

そして口を開く





「おとうさんっ!!」





「は…?」





広間はその子供の一言で一瞬にして凍りついた














「才蔵、どういうことだ」


珍しく真剣な表情で幸村に問い詰められ、溜め息をつく


「こっちが聞きたいよ」

「この子はお前のことを父親だって言ってるぞ!」

「何かの間違いでしょ」

「しっしかしだな!わざわざ一人でこの城に訪ねて来たのだぞ!お前を探して…」

「だから俺じゃないって」

「才蔵さん…」



見るからに悲しそうな顔をした名無しさんが俺の名前を呼んで

そしてフラリと立ち上がる


「名無しさん!どこに行くんだ?」

「あの…お茶を淹れてきます…それに私がいない方が…」


チラリと俺を見て去っていく名無しさん


「待て!俺も手伝う!」


名無しさんの後を追って佐助も出ていき、広間には俺と幸村、そして見ず知らずの子供だけが残された



(やれやれ…)



自分がいない方が話しやすいとでも思ったのだろう


しかし本当に身に覚えがない



「おとうさん!どうしてずっと家に帰ってこないんだ?だから迎えにきたんだよ!」

「だからおとうさんじゃないって」

「ねーねー!遊ぼうよ」

「話聞いてないね…」


グイグイと袖を引っ張り、駄々をこねる子供


俺のことを父親だと信じて疑っていないらしい



「そういえば名前は何て言うんだ?」

「ん?太郎だよ!ねっ?おとうさん」

「だから知らないって」

「お前のお母さんはどこにいるんだ?一人でここまで来たのなら心配しているだろう」

「…………」


母親のことを訊ねた途端、太郎の動きが止まる


「おかあさんなんて…知らない…」

「は…?」











「おかあさんは俺のことキライなんだ…」


名無しさんと佐助が運んできた温かいお茶と甘味を頬張りながら

太郎はこれまでの経緯を話始める


どうやら母親と喧嘩をして家を飛び出してきたらしい

そして"お父さん"がいるこの城まで逃げてきた…ということだった



「そっか…でも今頃絶対お母さん太郎君のこと心配してるよ?」

「心配なんかするもんか!おかあさんは俺のことキライなんだ!」

「頑固なところが才蔵にソックリだな…」

「だから違うって」


目に一杯涙を溜めて、頑張って話す太郎に同情したのか

名無しさんが優しい手つきで太郎の頭を撫でる


「でも、どうして才蔵のことをお父さんだと思ったんだ?」


確かに

そこだけがわからない

俺自身名無しさんと恋仲になってから、色沙汰任務も断っていたし

そもそも今までだって、暗殺以外の任務が来ることは滅多になかった


数少ない色沙汰任務で仮に相手が懐妊していたとしても

十になろう子供がいるわけがない



「前に城下で見かけたんだ!」

「城下で?」

「うん!おかあさんと買い物してるとき!」

「それで、城下で才蔵を見かけただけで何で才蔵がお父さんなんだ?」

「何でって…おかあさんがそう言ってたから」

「「「っ!??」」」


「"あの人があなたのお父さんよ"って」


「「「っ!!??」」」



皆が一斉に俺に疑いの眼差しを向ける



「何さ」

「才蔵!やっぱりお前…!」

「そんなわけないでしょ」

「でもお母さんがそう言っていたなら…」

「人違いだって。俺のことが信じられないわけ?」

「ぅ…」

「俺は才蔵のことを信用しているぞ!だから正直になるんだ!」

「それは信用してるって言わないでしょ…」












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