恋乱LB V

□未来へ繋がる約束
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くるくる舞いながら掌に落ちる桜の花弁



それを愛しげに眺めて、お前は笑った



「綺麗ですね…」


正式な祝言は出来ないけれど

それでも一緒にいられるのなら幸せと言ってくれた名無しさん


いつ死ぬかもわからない俺の側にいて

支えてくれる名無しさんが堪らなく愛しい


「今日はお団子持ってきましたよ」

「そ、ありがと」


桜の木の下で一緒に団子を頬張る



春のそよ風が名無しさんの長い髪の毛を揺らして

目を細めて幸せそうに微笑む彼女




名無しさんと一緒に、あと何回この季節を迎えられるのだろうか



"人の親になるつもりはない"



そうキッパリと言い放ったのにも関わらず名無しさんはこうして隣にいてくれる


両の手では足りないほど、彼女を傷付けて、突き放してきた



そのたびに思い悩み、涙を流してきたことも知っている



けれど結局は毎回、俺の方が気付かされることばかりで


ずっと人を遠ざけて生きてきた俺には本当の人の気持ちなどわかる筈もなかったのに


勝手に名無しさんの幸せを決めつけて


そして出来ないからと遠ざけた




(本当、頭が上がらないね)




隣で幸せそうに微笑む名無しさんのことを、誰よりも独占していたいのは俺の方



ずっと隣にいて欲しいと思っているのも俺の方なのに



こんなにどす黒い感情を名無しさんは知らない



求めているのは常に俺で、そのたびに名無しさんは

こんな穢い俺を全て受け入れてくれた



海のように広く深い愛情で包んで

一方的な欲情も全て飲み込んでくれる





「そろそろ戻りましょうか」



彼女の柔らかな声が頭上から響いて、引き戻された



「才蔵さん?」



春の柔らかな陽射しに照らされた名無しさんは何よりも綺麗で

顔を覗き込むその仕草さえ洗練されているような美しさが垣間見える



「…行こっか」



自然と繋がれた手は温かく、心にじんわりと火が灯るようだった

















「今日の夕げは何を召し上がりたいですか?」

「何でもいいよ」


他愛ない話をしながら歩いていると、俺達の横を何人かの子供がすり抜けるように駆けていった


その様子を切ないような、羨ましそうな瞳で見つめる名無しさん


聞かなくてもわかる


ささやかな祝言を挙げた俺達が次にすべきことは、普通なら子作りだろう


そうして家族を作って、いつまでも幸せに暮らしていく…


それが普通であって、しかしそれこそが最も難しい理想の形



「じゃあ、お肉にでもしましょうか」



俺に気を使わせないためか

パッと切り替えて、また他愛ない話に戻る


前より感情を隠すのが上手になった


それがわかってしまうから

そして全て俺のせいだから

胸が締め付けられる



何事もなかったかのように、いつも通りの笑顔で

哀しみを隠しながら

城までの道のりを、ゆっくりと歩いていったー…
























「ん!美味いぞ名無しさん!」

「確かに!米が進むな!」


夕げの席

宣言通り甘辛く煮付けられた肉や野菜が、次々と運ばれてくる


「ふふ。佐助君まだまだあるからいっぱい食べてね」

「おかわり!」


佐助にズイと差し出された茶碗を嬉しそうに受け取って、ご飯をよそう


その姿は息子を持った母のようで

思わず目を奪われた



「才蔵さん、おかわり如何ですか?」

「じゃ、もらう」

「あ、先生もおかわりですか?よーし!負けないぞ!」

「佐助は何の勝負をしてるんだ?」

「俺もいっぱい食べて、ゆくゆくは先生に負けないくらい立派な忍になるんです!」

「佐助君ならなれるよ。頑張って!」

「才蔵に負けたくないなら、今よりもっとキツイ鍛練が必要だな」

「えぇ〜〜幸村様〜それはひどいですよ!!今でさえ、いっぱいいっぱいなのに!」

「才蔵だって佐助ぐらいの時はもっとすごい鍛練をしていたんだろう?」


急に話を振られて、一瞬言葉に詰まる


「さあね」

「まあ、才蔵のことだから幼い頃から要領よくこなしていたんだろうが…」

「幸村様、それは俺が要領悪いってことですか!?」

「いや…そうではなく…何だ、アレだ。才蔵は忍としての腕だけは天才だから、その…比べる方が可哀想というか…」

「忍としての腕だけって結構失礼なんだけど」

「まあまあ…」


ワイワイと賑やかな夕げの席

昔は苦手だった



明るい場は眩しすぎるから


明るければ、明るいほど暗い陰ができるから









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