恋乱LB U

□お人好しの代償
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原家と徳川の大騒動に巻き決まれてから数日後…

漸く上田の城も落ち着きを取り戻しつつある

任務もなく部屋でゴロンと寝転がっていると、パタパタと知った気配が近付いてきた


「才蔵さん、お茶です」

「そ。ありがと」

目立った怪我もなく元気に仕事をする名無しさんが俺の隣に腰を下ろして、どうぞとお茶と団子を差し出す


彼女が消えた時、生きた心地がしなかった

目の前が真っ暗になって、心臓を鷲掴みにされた気分だった


またこうして一緒にお茶が飲める


そんな些細なことが改めて幸せだと感じる

「お団子の味はどうですか?今日は柚風味にしてみたんですが…」

「…ん…」

ただ頷いただけで、旨いと言っていることがわかるらしい

ニッコリと嬉しそうに微笑むと、温かいお茶を啜った



「そういえば清広さんは…」

「大丈夫」


派手に清広とやり合ったのを見ていた名無しさんは心配そうに眉を下げて俺の顔を見る

確かに清広も腕利きの忍だが、若いだけあって粗削りな部分も目立つ

大きな仕事はほとんど俺に任されているためか、経験も浅い


(そういえば…)


「お前さん徳川の坊っちゃんに触られてたよね」

「えっ?あれは触られてたというか、掴まれていたというか…」

「…何もされてない?」

「え?えぇ特には…」

こんなことが気になるのは、やはり彼女のことを愛しているからだろう

他の男が名無しさんに触れるのが許せない

俺はこんなに嫉妬深かっただろうか

いや…今まで生きてきて嫉妬などしたこともなかったし、誰かを愛しいと思う感情さえ、持ち合わせていたことはなかった


「…簡単にホイホイ捕まらないでよね」

「それは…すみません…」

「…お人好しも程々に」

「はい…その節はご迷惑おかけしました…」

「それと、なるべく俺から離れないで…」

「…え?」

言ってしまった後でハッと息を飲む

(何言ってんだか…)


沈黙が続く

驚いたように目を丸くした名無しさんが俺を見つめて、そしてフッと目尻を優しく下げた


「はい。才蔵さんのお側にいます」

「………」

名無しさんに無言を返すと、何がそんなに嬉しいのかニコニコと笑顔を浮かべている


…少しだけ決まりが悪いけれど、名無しさんがあんまりにも嬉しそうに笑うから


まぁ、いいかとお茶を啜った


「そういえば、あの時の才蔵さんすごくカッコよかったです!」

「…あの時?」

「はい!清広さんと対決していた時!」

「対決って…そんな大層なもんじゃないけど…」

「私には目で追うのが精一杯で…」

「普通そうじゃない」

「才蔵さんがどこで、どう動いていたのか全部はわからないんですけど…」 

「……惚れ直した?」

「っ!……」

「あれ、言えないの?」

「いえ…あの…」

ほんの、冗談のつもりだったのに。
そんな顔をされたら、余計苛めたくなる

顔を赤く染めて、じりじりと後退していく名無しさんの手首を掴む


「どうなのさ」

「…毎日…」

「毎日?」


「…毎日惚れ直してます!」


キッパリと言い切った彼女の目には少しも濁りがなく、澄んでいる

赤く染めた頬が綺麗な瞳を余計際立たせているようで、柄にもなく心臓がドクンと跳ねた


「もー…こんな恥ずかしいこと言わせないで下さいよ…」

「恥ずかしいこと…ね」

「…わかってるくせに…」

「不意討ち…」


小さな丸い頭に手を寄せて、そっと口付けを落とすと驚いた名無しさんが手に持っていた柚団子をポトリと落とす


柔らかな唇からは、ほんのりと柚の味がして食むように接吻を繰り返すと、息苦しくなった名無しさんがトンと俺の胸を押した


「ふっ…不意討ちはどっちですか!」

「…お前さんが急に可愛いこと言うからだよ」


ペロリと濡れた唇を舐めると、やはり柚の味がする


「そんなこと…私が本当に思っていたことですし…」

「そ?じゃあ毎日俺に惚れてくれてるんだ?」

「そっ…それは…ひ…秘密です!」

プイッとそっぽを向いて顔を隠そうとする名無しさん

(全然秘密になってないけど…)


くつくつと喉を鳴らして笑いを溢すと、そっぽを向いたままの彼女の頭にちゅっと音を立てて口付けを落とす


「…っ!」

「ご褒美」



































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