恋乱LB U

□あの夜をもう一度
1ページ/3ページ



柔らかな陽射しが降り注いでポカポカと気持ちの良い午後

屋根の上でウトウトしていると、梯子を登ってきた幸村がヒョコッと顔を出す

「才蔵!今夜は宴だ」

「今夜?」

「そうだ!御屋形様とな」

「へぇ〜〜…何で」

「近々また戦が始まるらしい。景気付けに一杯飲みってわけだ!」

「ふーん…」

正直面倒臭い

幸村と信玄さんだけでやればいいものを何故俺まで駆り出すんだ

適当な理由でもつけて断るか、途中で抜け出すか…

「それと名無しさんも連れてこいとのことだ!」
 
「名無しさんも?」
 
「あぁ。御屋形様のご命令だ。名無しさんにも伝えておけよ!」
 
「…はいはい」


流石は武田信玄…ってとこか

名無しさんが一緒なら俺もバックレることはしないと踏んでのことだろう

今夜のことを思うと、はぁと溜め息を溢さずにはいられなかった













「佐助君、手伝ってくれてありがとう」

「これぐらい任せろ!」

庭で洗濯物を干し終えた名無しさんと佐助の姿を見つけると、ユラリと二人の元へ歩き出す

俺の気配に気付いた名無しさんが視線をこちらに向けると、嬉しそうに顔を綻ばせた


「才蔵さん!」


可愛らしい声で嬉しそうに駆け寄ってくる彼女

これだからこの女は手放せない


「洗濯終わったの」

「はい!今日は佐助君が手伝ってくれたので、ずいぶん早く終わりました」

「先生!俺、洗濯物干すのかなり上達したんですよ!」

「へぇ…じゃあ後は忍術の腕だけだ」

「ぐっ…」

「まあまあ…佐助君本当に上手だから私は助かってるよ?」

「本当かっ!名無しさん!」

「うん、本当!」


ニコニコと佐助を慰める名無しさん

佐助は彼女のことをまるで自分の姉のように慕っている

甘える相手が出来たことで、以前よりもいい意味で子供らしくなった

(甘える相手が出来て変わったのは佐助だけじゃない…か)

かく言う俺自身も、名無しさんが来てからというもの、かなり変わったらしい

自分でも薄々気付いているくらいだから、他人から見れば一目瞭然なんだろう


「今夜信玄公とちょっとした宴があるらしいよ」

「あ、わかりました!何かご用意するものはありますか?」

「お前さんも一緒に」

「えっ?私も…?」

「そ、武田信玄たっての御指名」

「信玄様の…?」

「えぇ〜〜!!狡い!!俺も行きたいです先生〜〜!!」

「お前は呼ばれてないから、部屋で先に寝てな」

「そんな〜〜!!」

半べそをかく佐助を宥めながら、名無しさんは困ったように笑う

その表情一つ一つが愛しい

決して口には出せないけれど、彼女の存在自体が、今の俺の生きる意味でもあり糧でもある

それを知ってか知らずか、名無しさんもまたいつも側にいる気がする

少なからず嫌われてはいないようだ

「じゃあまた後で」

それだけ言うと、その場から姿を消す

一緒にいればいるほど大きく膨れ上がる気持ち

俺は手放したくないという思いと同じだけ、この想いが溢れてしまうのを恐れていた


(矛盾してる…よね全く)


























夕げもそこそこに、早速広間へと行くと既に信玄公と幸村が集まっていたらしく、戸を開けた俺にキョトンとした視線を向ける

「才蔵、名無しさんはどうした?」

「一応声はかけといたんだけど」

「才蔵ならきっと名無しさんを連れて一緒に来ると踏んでいたが…勘が外れたな!」

ニヤリと含みのある笑みを浮かべて、俺を見る信玄公

この人は何もかもお見通しらしい

「…信玄さんも人が悪い」

「仕方ねぇ…この三人なら野郎臭くて敵わねぇな…幸村。名無しさんを呼んでこい!」

わざと幸村をけしかける辺り、俺を挑発してるのか…

つかず、離れずの今の俺達に覚悟を決めろって意味にもとれる

「俺が行きますよ信玄さ…」

「遅くなりましたっ!!失礼します!!」

そこへ丁度息を切らせた名無しさんが到着した

「遅いぞ。名無しさん」

「すみません…今日汗をかいたので水浴びをしてからと思いまして…」

確かに彼女の髪の毛は濡れていて、うなじを出すように結った首筋には水が伝っている

十分に拭き取る暇もなく、余程急いで来たんだろう


「水浴びか…なるほど」


妙に艶のある笑みを浮かべた信玄公と、漸く集まった三人とで気の重い宴が始まったー…



































*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ