恋乱LB U
□悲劇か、喜劇か
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どうしてこんなことに……
「ごめんなさい…清広さん……」
髪の毛から滴り落ちる雫
ずぶ濡れになった着物
散らばった食材達
そして……
川の底に沈んだ団子……
(殺されるかもしれない…)
遡ること数時間
「才蔵さん、買い物に行ってきますけど何か食べたいものありますか?」
「団子」
「…の他には?」
「ない」
夕げの為の買い出しを任された名無しさんさんが才蔵さんの食べたいものを聞いてガックリと項垂れている
才蔵さんが団子と言うのは目に見えている筈だが、一応確認をとるところが何とも名無しさんさんらしい…
「じゃあ行ってきます!」
「はいはい」
木の上からその様子を見つめていると、才蔵さんが目で俺に合図した
(付いていけ…ということか)
才蔵さんは、このあと幸村様との軍事会議のため城を出られない
いつもなら才蔵さんが付き合うのだが、こうして外せない用事がある時は大抵俺が名無しさんさんの護衛につく
護衛につくと言っても、才蔵さんのように並んで歩くことはせず、いつもこっそりついていくだけで、何か危険が迫った時だけ俺が出る
今まで俺が出る幕などなかったのだが…
鼻歌を歌いながら城を出る名無しさんさんの後をこっそりつけたー…
「お団子五本くださーい」
何事もなく、夕げの食材を買い込むと、帰り際に才蔵さんの団子を買うためいつもの甘味処へ寄る
「ありがとうございましたー」
満足そうに笑みを浮かべて再び歩き出した彼女
ここまでは順調…
今日も平和に終われそうだ
と思った瞬間ー…
「きゃあ!!」
走ってきた子供とドンと思いきりぶつかって、足元がぐらつく
「っ!」
ドボーンと派手な音を立てて、彼女の手を掴み損ねた俺ごと、すぐ横に流れている川へと落ちた
「ぷはっ!」
背の低い名無しさんさんでも足が届くようで、焦ったように顔を上げると、同じく川に浸かった俺を見てギョッと目を見開く
「え…?清広さん…どうして…?」
「…とりあえず上がりましょう。風邪を召されてしまっては困ります」
冷たくなった手を引いて、川から上がると、目の前には散らばった食材達がプカプカと川を泳いで…団子は沈んでいた
「……沈んでる」
「……沈んでますね」
「…乾かせば何とか…?」
「無理でしょう」
はぁぁと溜め息をついてガックリと肩を落とす名無しさんさん
「…ごめんなさい…清広さん…」
「…何がです?」
「私を助けようとして、清広さんまで落ちちゃったんですよね…?」
そうだと肯定するのも可哀想な程落ち込む彼女にフッと笑いが込み上げた
「…とりあえず城に戻って着替えましょう。濡れたままでは…」
「…そうですね…」
気を取り直した様に立ち上がった彼女にギクリとする
透けている…
濡れた着物が肌にピッタリとくっついて、寒さからか立ち上がった胸の頂が透けて見えていた
張り付いた着物は彼女の体の線をハッキリと表していて、思わず顔を背ける
(本当に才蔵さんに殺される…)
「清広さん?」
不思議そうに俺の顔を覗き込む名無しさんさんに、悟られないよう静かに深呼吸をすると、何事もなかったかのように向き直った
「…そのままでは町を歩けないでしょう。掴まって下さい」
「はい…っきゃ…」
横向きに担ぎ上げ、地を蹴ると宙を浮いたことに恐怖したのか目をぎゅっと瞑って、俺にしがみつく名無しさんさん
目を閉じたその表情はいつもより幼く見える
素直に可愛らしいと感じた
「っ…」
体が濡れているため手からずり落ちそうになるところを、もう一度持ち直すと、俺の指に硬いものが当たる
「んっ…」
「…っ!」
それが胸の頂だと気付いた頃には、既に時遅し
カアアと顔を赤らめてぎゅっと目を瞑る名無しさんさん
それを見て何だかこちらも恥ずかしくなる
今更手を避けたら更に気を使わせる…?
敢えて気付かないフリをして、そのままにすることにした
「…っ…」
ちょっとした振動の度に、刺激を与えてしまう
(…俺の方が限界かもしれない)
何となく才蔵さんが彼女に夢中になる理由がわかったような気がする
珍しく高鳴る心臓を抑えながら、城へと急いだー…
*