恋乱LB U

□恋に落ちて
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よく晴れた午後、ポカポカと降り注ぐ柔らかな陽射しに欠伸が止まらない

「才蔵さん」

木の上から佐助に稽古をつける幸村をぼんやりと眺めていると、清広が姿を現した

任務は終わったばかりで、今のところ何もない筈だ 

何か問題でも起きたか…
面倒臭い様子を隠すことなく清広を見ずに返事をする

「何」

「…あの人が里を抜け出しました」

「あの人…?」

「これを…この文が部屋に置かれていて…姿が見えなくなりました」

カサリと乾いた音を立てて、文を広げると見覚えのある文字が綺麗に綴られている



"名無しさんに会いに行きます。何日かで戻る"


蛍…


「…で、捕まえたわけ?」

「いえ…まだ見つかっていません。俺が先回りしてここに…」

「そ。現れたらすぐに捕らえて里に返せ」

「御意」


(全く面倒なことになったね…)

文にはご丁寧に名無しさんに会いに行くと書かれている

余程あれのことが気に入ったらしい

念のため彼女の側で見張るとするか…

その前に清広がちゃんと捕らえてくれるだろうけど…

そんな深く考えもせず、重い腰を上げた















チラリと炊事場を覗くと、そこにいる筈の名無しさんの姿が見えない

近くにいた女中に声をかける

「名無しさんいる?」

「あ、才蔵さん。名無しさんさんなら買い出しに出かけましたよ?」

「買い出し…いつ城を出た?」

「あぁ、そういえば出てから大分時間が経ってますねぇ…そろそろ帰って来るかと…」

最後まで聞かずに、地を蹴って跳ぶように走った


あれだけ城下に出るときは声かけろって言っていたのに…

何故か変な輩に好かれやすい名無しさんを一人で城下に行かせると絶対にロクなことがない

もしかしたら、もう蛍に捕まったかもしれない

嫌な気持ちを振り払うように、ただひたすら走ったー…






















城下は人で賑わっていて、ザッと目を通しても名無しさんらしき人は見当たらない

とっくの昔に買い物は終えた筈だ

城に戻る道ですれ違わなかったということは、何処かに連れ去られたか?

いや、名無しさんなら…




いつものお茶屋の前まで足を運ぶ


もし買い物を終えていたなら、俺に土産と言って団子でも買うために寄る筈だ 

すると外に置いてある長椅子に腰かけて楽しそうにはしゃぐ名無しさんの声が聞こえた

「蛍ちゃん、たくさん食べてね!」

「うん」

蛍…やはり…

清広に伝えるため使いの烏を飛ばせると、二人に近づく


「あ、才蔵さん!」

「…………」

俺の姿に気付いた二人が、目を丸くさせて驚いた

(全く…人の気も知らないで…)


蛍には目もくれず、名無しさんだけを見据えて不機嫌に口を開く


「何してんの」

「買い出しに行く途中で、偶然蛍ちゃんに会って!一緒に買い物してました!」

全く悪びれた様子もなく、意気揚々と話す名無しさん

どうやら今のところ何も変わった様子はなく、本当にただ一緒に買い物をしていただけらしい

「…城下に行くときは声かけろって言ったでしょ」

「あ…すみません。そんな多くなかったので一人でも大丈夫だと…」

「全く…」

チラリと蛍を見ると、強い眼差しで俺を見つめている

「蛍」

「…お兄ちゃん…」

「もう時期、迎えが来る。お前は里に帰れ」

「えっ!?でも今来たばかりですし…」

「勝手に里を抜け出したんだって?」

「…………」

「あまり面倒を起こすな。迷惑だ」

「っ……」

シュンとしたように目を下げた蛍に冷たい表情でそう告げると、蛍の前に名無しさんが立ちはだかって庇うように、食ってかかった


「才蔵さん!そんな言い方…酷いです!せっかく才蔵さんに会いに来てくれたのに…あんまりですよ!!」

俺に会いに来たと思っている名無しさんは怒りの炎を宿した瞳を俺に向ける

(本当はお前に会いに来たらしいけど…)

しかし、そんなことを言って変に蛍を意識するようになるのも面白くない

ここは何も言わない方が……







「違うよ、俺は名無しさんに会いたくて来た」


きっぱりとそういい放った蛍と、俺が動いたのは、ほぼ同時だった

これ以上喋らせてはいけない

仕込んでいた麻酔針を片手に蛍の後ろに回り込もうと動いた筈…だった




「……へぇ。どうやら里に帰ってからもちゃんと稽古はしてたみたいだね」

「…………」


いつもなら刺せた

俺の動きを読んで、素早く避けた蛍は確かに以前よりも腕が上がっている























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