恋乱LB U

□紅い華
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「おいで」


ニッコリと微笑みながら片手を伸ばして、自分の方へと引き寄せる

すっぽりと体を覆うようにこの腕に抱くと、華奢な体がピキリと強ばった

そして……


「ん……」


チュッと音を立てながら重ねた唇

柔らかな感触に暴走しそうになる己を抑えながら軽い接吻だけを落とす



「は…ぁ…」


ゆっくりと糸を引きながら離れ、彼女の濡れた唇をそっと指で拭った

「…顔赤いね」

そう呟くと、更に顔を赤くさせる名無しさん

初な反応が堪らなく愛しくて、目尻が下がる

すると何を思ったのか、いきなり自分の頬をつねり出した

「…何してんの」

「…いえ…。もしかしたら夢かも…」


ギュウと力一杯つねった頬は赤くなっていて、相当な力が込められていたことを物語っている

「くくっ…夢じゃないよ…」

そっと頬を撫でて、クスリと笑うと涙目になった瞳が大きく見開かれた

「っ…!」

「何?」

「…才蔵さんが…くすぐったいです…」

「…何それ?」

「何か…いつもよりお優しいから…」

「いつも通りだけど」



(くすぐったいか…確かに)

こんな甘い自分は生まれて初めてだ

もし第三者の立場なら、からかっていたに違いない

自分の変化に気付いてはいたが、名無しさんから言われる辺り、かなり変わったのだろう

抱き締めた腕にギュッと力を込めると、それに応えるように背中に手が回され、一寸の隙間もないくらいピッタリと密着した


ふと視線を落とすと、白くスラリと伸びた首筋

ほんの悪戯心から、そっと唇を寄せて強く吸い付く

「っ!…た…」

「痛かった?」

「少しだけ…何したんですか?」

「…さあね」

「…?」


(追求はしてこないのか)

恐らく何を聞いても無駄だと、わかっているのだろう

不思議そうな顔はしているが、敢えて深くは突っ込まない


すっかり俺の扱いに馴れたってところか…

そして名無しさんは仕事のため部屋を後にした



首筋に何をされたのかも知らないままー…













「ぁっ…才蔵さ…ゃめ…」

「んっ…そんな…ぅっ」



「…っ!」



夢…か


いつの間に寝てしまったのだろう

外を見ると景色が赤く染まって、夕げの匂いが漂っている


軽く首を振ると、段々と頭が冴えてきた

それにしても何て夢だ

夢の中の俺はあろうことか欲望に身を任せて、名無しさんを抱いて…



「欲求不満かな…」

クッと自嘲するとバタバタと慌ただしく廊下を走る音が聞こえる


この足音の主にピンときた俺は静かに部屋を出た


















足音の主名無しさんの部屋を覗くと、鏡を見ながら何やらブツブツと呟いている

あの様子からすると、女中にでも指摘されて焦って部屋に駆け込んできたのだろう


「もー…どうしようコレ…」





「あれ、隠すつもり?」


「きゃぁあっ!!」


驚き悲鳴を上げた名無しさんが俺の方を振り向く

「…いつから居たんですか…」

「さっき」


笑顔で答えると、怒る気も失せたのか呆れた様子で溜め息をついた


「で、それ隠すつもり?」

「だって…このままじゃあ恥ずかしくて炊事場にも立てませんよ…」


長い髪の毛を前の方に流すと、見事に印が隠れた

せっかく見えるところにつけたのに、これでは意味がない


「ほら!これなら見えないですよね!」

「…………」


嬉しそうに隠れたことを喜ぶ名無しさん
 


しかし俺はついさっき見た夢を思い出していた



脳裏に色濃く鮮明に写し出されるあの淫らな夢






「才蔵さん?」




俺を呼ぶ名無しさんの声でさえ、どこか遠く聞こえた






















*
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