恋乱LB U

□甘い罠にかかったのは自分
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「こんにちは〜」

「あぁ、来たの」

京に才蔵さんと里帰りをして五日目

長い暇を出してもらえたことで、割りとゆったりした時間を過ごせている


(才蔵さんが料亭の若旦那ってことになっていたのは驚いたけど…)


才蔵さんの抜かりない準備には本当に度肝を抜かれた


「またゴロゴロしてたんですか?」

「せっかくの休みだからね」

「…そんなんじゃ太っちゃいますよ」

「俺あんまり肉つかないから」

「……………」


京に来てからというもの、立って歩いた姿を見たことがないような…

普段が忙しすぎるのかも…

たまにはゆっくり休ませてあげよう…



「いい匂いがする」

「え?あぁ…家で作ってきた仕出しのものと、お団子を持ってきました」


才蔵さんに差し出すと、ゆっくりと座って箸を持つ

「今日は煮物なんだね」

「えぇ、お口に合えばいいですけど…」

パクリと一口頬張って、才蔵さんは笑みを浮かべた

「ん、うまい」

「良かったです」

食べる仕草さえも、どこか上品で洗練されている

そういえばお姫様の歩き方を教えてくれたのも才蔵さんだったな…

教養があって育ちが良くて…若旦那と言っても少しも疑う余地がない


「…じっと見られると食べづらいんだけど」

「…え?あぁ、そうですよね…すみません…」

才蔵さんから目を反らし、外の景色を眺める

ヒラヒラと桜の花が舞い散る様子は青く澄み渡った空にピッタリだ


「もう少しで全て散ってしまいますね」

「ん…そうだね」

「才蔵さんと…京に来られて良かったです」

「……そ…」

「私、才蔵さんと出会えて本当に良かった」





 










大きな瞳に桜の木を写しながら彼女はポツリとそう言った

俺達の出会いは何十年も前だということをまだ知らない

あの日から忘れることはなかった少女

まだ当時の面影を色濃く残した名無しさんのあどけない笑顔は、どこか神聖な光を放っている気がした


俺はこの無垢な娘を巻き込んでしまったのだ

だけど二度と離すつもりはない

一生守ると心に決めたあの日からー…




「もう食べちゃったんですか?」

「まあね」

「よく噛んで食べないと喉詰まりを…」

「大丈夫だから…」

「んっ…ぅ…」


そっと頬に手を寄せて唇を重ねる

薄く開かれた唇にするりと舌を侵入させると、熱い吐息が漏れた


「は…ぁ…」


潤んだ瞳が俺を誘う

だが……


「あ!そろそろ店に戻らないと!」

「…まだ大丈夫でしょ」

「いっ…いえ!お母さんもきっと待ってると思うし!じゃあ失礼します!」


逃げるようにその場を後にする名無しさんを黙って見つめた

まだ早い…か

心が通じ合ったら、体を重ねたい

そう思うのは俺の我儘だろうか?

一緒にいれば、いるほど募る愛しさ


それが行動となって気付けば体が動いている




抱きたい




肌を合わせて、もっと名無しさんを近くで感じたい



そろそろ我慢の限界だった



「俺からはもう、逃げられないよ…」




そう呟いて、ゆっくりと腰を上げたー…





















(あー!!恥ずかしかった!!)


才蔵さんのことは大好き

だけど近くにいると、どうしても緊張してしまい体が動かなくなる

恋仲になった者同士が次にすることは大体わかってる

最も、経験のない私には詳しい内容はわからないけど…


いつもそういう雰囲気になると、逃げてしまう私を才蔵さんは変に思ってないかな?

もちろん嫌なわけじゃない

嫌なわけじゃないけど、心の準備が…



「そろそろ店じまいしようか!」

「あ、そうだね…もう暗くなってきたし…」

「悪いけど外の暖簾を片付けてくれる?」

「はーい」


すると突然誰かが大慌てで店に駆け込んできた


「すっ…すみません!!」

「おやまあ…才蔵さんのとこの…」

「名無しさんさんいらっしゃいますか!?」

「あ…はい。私ならここにいますけど…」

「若旦那がっ…若旦那が体調を崩されて…!早く来てください!」



「「えぇっ!?」」



驚いた私とお母さんは同時に声を上げる

でも体が弱いのは表向きで、才蔵さんは至って元気なのに…

どうして…


「名無しさん!早く行きなさい!今日は帰って来なくていいから!しっかり看病するんだよ!」

「わ…わかった!」


料亭の人の後を走ってついていきながら、屋敷へと急ぐ


(もしかして…ずっとゴロゴロしていたのは体調を崩していたから…?)


どうか無事でいて…才蔵さん…



祈るような気持ちでがむしゃらに才蔵さんの元へと走ったー…







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