恋乱LB

□目隠しの理由
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「才蔵さーん、お団子お持ちしました。あれ?」



さっきまで幸村様と一緒に座っていた縁側には才蔵さんの姿がない



「おう、名無しさん。才蔵なら出かけたぞ」


「任務ですか?」


「清広が来たから恐らくそうだろう」


「そうですか…」




(一言くらい言ってくれればいいのに…)





お盆に乗せられた団子とお茶にしょんぼりと目線を落とすと、スッと男らしい大きな手がお盆を持つ





「わざわざ茶と菓子を用意してくれたんだな…才蔵じゃなくて悪いが俺と一緒でよかったらお前も座れ」




優しい幸村様は自分の腰かける横をポンポンと叩いて、座るよう誘導してくれる



「ありがとうございます…じゃあお言葉に甘えて…」



幸村様の隣に座ると二人で他愛ない話をしながら、温かいお茶を啜った



幸村様は気を使ってくれているのか、才蔵さんの話をしないように敢えて面白おかしい話をしてくれる




その心遣いが嬉しかった






(幸村様はお優しいなあ…)







この人と恋仲になる女性はきっと幸せになるに違いない





いつも優しくて真っ直ぐで誠実な方…



照れ屋さんの幸村様は、なかなか女性との噂話はないけれど、いつか絶対に幸せになってほしい




その後も幸村様との楽しいお喋りは続いた





















「で、状況は」


「今のところ順調に進んでます」


「そ。何か変化があったら報告よろしく」


「御意」




そう告げて足早に屋敷へと向かう


きっと名無しさんがお茶と団子を用意してくれているに違いない



ここのところ任務ばっかりだったお陰で、なかなか名無しさんとの時間をとれずにいた



気丈に振る舞ってはいるが、寂しい思いを必死に隠していることは十分わかっている



だからなるべく一緒にいられるときは側にいてあげたい






(いや…)






そんな理由をつけて、一緒にいたいのは俺の方だ




俺の方が名無しさんを強く欲している




離れがたいのはいつも俺で、少しでも長く側にいたいと願っている






(やれやれ、これじゃあただの乙女だよね…)




フッと自嘲すると、元いた縁側に戻るため足を速めた














屋根の上に降り立つと賑やかな笑い声が聞こえてくる






(幸村と…名無しさん…?)





楽しそうに笑う二人は俺がいることに気付いていない







「あっ…幸村様、じっとしていて下さい」


「何だ?」



そっと幸村の癖毛に手を伸ばすと、髪の毛についていた埃をとる名無しさん


その様子は知らない人から見れば、仲のいい恋人同士に見えるだろう




「はい。取れました」


「あっ…す、すまんな…」


「いえ…」




顔が赤くなる幸村につられて、名無しさんの顔も赤く染まる








何だろうこの胸騒ぎは






今まで幸村と一緒にいるのを見かけても、こんなに胸がざわつくことなどなかったのに





耐え兼ねた俺は二人の目の前にスッと降り立った








「才蔵さんっ!」


「才蔵っ!!」



慌てた二人はサッと離れて距離をとる



その行動に更にカチンときた俺はなるべく笑顔で、何事もなかったかのように二人の間に座った






「あれ?団子用意してくれてたんじゃなかったの?」



チラリと目線をさ迷わせると空いた皿に、空っぽの二つの湯呑みが見える






(二人きりでお茶会してたってわけね)





「あっ…すぐに代わりをお持ちします!」


「いや、いい」



ピシャリと跳ねつけるような言い方になってしまった



三人の間に何となく気まずい雰囲気が漂う


それを何とかしようと火蓋を切ったのは幸村だった






「にっ…任務は大丈夫なのか?」


「まあね。帰りが早くてまずかった?」


「いや…そんなことは…お前の帰りを二人で待っていたところだ!」


「へぇ…」




"二人で"



いちいちそんな言葉に反応してしまう自分が嫌になる



それくらい気に入らなかった




「幸村様ーっ」





丁度よく佐助が幸村を呼ぶ声が聞こえる




「あっ!佐助を町に連れていく約束をしていたの忘れていた!じゃあ俺は失礼する!」





慌てたように幸村はその場を立つ



幸村にとってまさに鶴の一声だったに違いない




「あ、名無しさん!馳走になったな!」



お礼だけ残すとバタバタと幸村は消えた























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