恋乱LB

□目眩
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今、目の前で起きていることが信じられない


「さっ…才蔵さん…」



名無しさんの緊張がヒシヒシと伝わってくる



「…お前さん一体どうしちゃったのさ」



















名無しさんの様子がおかしいと感じたのは昨日から











「才蔵さん、すみません…お買い物に付き合わせちゃって…」

「別に、んで何買うの?」

「大根とお芋と小豆です」

「へぇ、今日の献立が楽しみだね」



小豆は俺の団子のためだろう

そんな些細なことさえも嬉しい




名無しさんは慣れた様子で目当てのものを購入する


荷物をひょいと持つと焦ったように俺から荷物を奪い返そうとする



「あっ才蔵さん、大丈夫ですよ!全然重くないですから」

「女に荷物持たせるわけにいかないでしょ」

「でも…付き合わせた上に荷物まで…」

「いいから。お前さんはこっち」




片手を差し出すと名無しさんは照れたような、嬉しいような、はにかんだ表情をして控え目にきゅっと俺の手を握った




(全く可愛いよね…)





この女の初さにまたそそられる


何も知らないようでいて、彼女なりに一生懸命考えながら俺に付き合ってくれる


俺にはない強さが、この女にはある









手を繋ぎながら城へと歩いていると、ふと見覚えのある女が向かいから歩いてきた




(あの女は…)






間違いない




次の任務の標的となる側室の女







しかし何故こんなところを、それも一人で歩いている?




何かあったのか?



もう少し探る必要があるかもしれない











そんなことを考えている俺に名無しさんが気付いていたとは、この時は知らなかった













「才蔵さん、荷物まで持って頂いてありがとうございました」

「どーいたしまして」




夕げの仕度がある名無しさんと別れると早速、さっきの任務の情報収集に取り掛かるべく、すぐに城を後にしたー…























(…やっぱり、何かあったのか)




情報収集を任されている里のものを捕まえて、変わったことがなかったかと聞くと、新しい側室を迎えるにあたって色々と問題が起きたらしい





(任務は先伸ばしにして、しばらく様子をみた方が良さそうだ)







後のことは部下に任せて、俺はどう出るか思案を巡らせるため一人になれそうな、あの場所へと向かった


















いつもの屋根の上に降り立つと、ゴロンと横になる





「あー…面倒くさ…」





ポツリとそう漏らしながら、ぼんやりとどう動くかを考えた



しかし浮かぶのは名無しさんの顔ばかりで考えがまとまらない




(俺もいよいよ重症だね…)














「おーい名無しさんー!どこだー!」



下で佐助が名無しさんを呼ぶ声が聞こえる


ひょいと下を覗くと、佐助の他に幸村もキョロキョロと探しているようだ





「おーい!名無しさんー!」







「名無しさんなら炊事場にいるでしょ」



「わっ!!才蔵!そんなとこにいたのか!驚かすな!」


「あ、先生!それが炊事場にいないんです…他の女中達も探してて…どこか心当たりありませんか?」





炊事場にいない?



確かに名無しさんは荷物を持って夕げの支度に向かった筈



この城内でさらわれたとは考えにくい



自らどこかへ出かけたのか?


でも一体どこへ…?








「あ、皆さんお揃いでどうされたんですか?」




「っ!名無しさん!!」

「?どうしたんですか?」

「お前っ皆で探したんだぞ!どこに行ってたんだ!」

「えぇ!?それはすみません…少し用を足しに…」




何かおかしい


用足し?


誰にも何も告げず姿を消すような女じゃない




この時初めて何かが引っ掛かった








じっと探るように名無しさんを見ていると、俺の視線に気付いたのか上を見上げた名無しさんと目が合った



だがすぐに視線を逸らされてしまう






「じゃあ私すぐ炊事場に行ってきますね!」





パタパタとその場から走り去る










(何かあったのか…)









少し様子を探るため屋根伝いに炊事場へと向かった



























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