恋乱LB

□我が家の強敵
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「おとうさま!今日こそ手裏剣の御指南をお願いします!」



「………はぁ」







名無しさんとの子が生まれて四年



男子だと周りはみんな喜んだが、俺はその時感じた嫌な予感がとうとう当たってしまったのだと深い溜め息をついた








(絶対に俺と同じ道は歩ませたくない)








生まれた時からそう思っていたし、きっと名無しさんも忍にすることをよくは思っていないだろう





もちろん生まれた時は本当に嬉しかった





愛しい女との間に出来た結晶






嬉しくない筈がない






父親になって初めて責任感という感情が生まれたし、愛しい妻と息子を命をかけて守ろう…そう心に決めていた










息子の"春"は自分でも驚く程生まれた時から俺に似ていた





同じ髪色に同じ瞳






容姿はほとんど俺と同じ





しかし性格はワンパクでよく喋る、名無しさんを男にしたかのような底抜けの明るさを持つ息子






(いつか絶対言われると思った…)







"忍になりたい"







既に前線から退いた俺は、全盛期に突然姿を消したことで過去の任務に尾ひれがついて、もはや伝説のように語り継がれる存在となってしまった




もちろん本意ではないし、なるべく春には忍の頃の俺の話をしないよう周りにも言っていた筈なのに、それでもやはり耳に入ってしまうのだろう





春は全てを知らない






良いところだけを聞いて、残酷なことは聞かされていない






春の中で忍は"格好がいい"ものになってしまっていた








(さて、どうしたものかね…)







「才蔵さーん!春ー!お茶が入りましたよー!」




どうしようか思考を巡らせていた正にその時、丁度名無しさんの声が響く




「いまいく!」




甘い匂いに釣られたのだろう

春はさっさと家の中へ駆けていった





「はぁ…」





今回は奇跡的に助かったが次は何て言えばいい?


いくら考えても適当な答えは見つからない






(誰かさんに似て頑固だしね…)





少しだけ笑みを浮かべながら春の後を追って家へと急いだ

















「おいひぃ〜〜!」



はむはむと嬉しそうに団子を頬張る春



「よかった。でもあんまり口に入れると喉つまりするよ?」



そう言いながら名無しさんは人肌程度の温かいお茶を春に差し出す




春が火傷しないよう冷ましておいたのだろう



名無しさんはもはや立派な母親だ



まだあどけなさを残しつつも、優しく芯の強い母親の顔になっている


一方俺はどうなんだろう?



ちゃんと父親の顔になっているのだろうか?




自分では全くわからない










「お父様と何してたの?」


「手裏剣の御指南を頼んでた!でもなかなか教えてくれないんだぁ…」



寂しそうな顔をして頭を垂れる春に少しだけ心が傷む




「手裏剣を?」


「うん!僕、おとうさまの様な忍になりたいんだ!」


「ぇえっ!?」




これには名無しさんも驚いたようだ



チラリと俺の方を見るとお互い視線を合わせて、困ったような表情をする






(…母親は何て言うかな?)








名無しさんはどう出るか様子を伺っていると、フッと表情を和らげて春に笑いかけた






「春はお父様に憧れているんだね」


「うん!お父様は誰よりもかっこいい!」


「そっか。私もそう思うよ」


「!」





どういうつもりだ?



名無しさんは春が忍になるのは反対じゃなかったのか?






「でもね、春」



「なあに?」



「忍になるってことは真っ暗な夜の森を一人で歩かなきゃいけないのよ?」


「え…?」





(…そこ?)






「夜の厠だって一人で行けなきゃ立派な忍にはなれないし、夜に一人で眠れる?」



「…………」




「時にはお化けや妖怪とだって戦わなきゃいけないのよ?」





(…真剣な顔で何言ってんだか…)





「春に出来る?」





春はここに来てようやく忍になることが如何に大変かを悟ったのか、真剣な表情でとてつもなく悩んでいる













「できない…」










悩みに悩み抜いてやっと開いた口からは、俺が言わせたかった一言がようやくポロリと溢れた
























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