恋乱W

□かくれんぼ
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「あーーー暇だなあーーー」




冬とも春ともつかない、ある日の午後



風は冷たいけれど、心地よい陽射しが温かく差していて
それほど寒くはない



おやつを食べた佐助君が、暇を持て余したようにそう呟いた




「暇だ暇だって…おい佐助!そんなに暇なら鍛錬に励め!」


木刀を振りかざしながら、ぴしゃりと幸村様に言われると
頬をぷうと膨らませて、そっぽを向く


「だって…先生だっていませんし…」

「別に才蔵がいなくとも、鍛錬くらいはできるだろう!ほら!俺が稽古つけてやるから、さっさと木刀を持て!」

「でも…忍と武士とでは戦い方が…」

「四の五の言うな!」



いつも通り、幸村様と佐助君がやんややんや揉めていると
珍しく才蔵さんが気だるそうに現れた



「うるさいなあ…何の騒ぎ?」

「あっ!先生!聞いてくださいよ!幸村様が…」

「おい!才蔵!佐助に稽古をつけてやれ!暇だ暇だとゴロゴロしていては、戦に出た時、お屋形様をお守りできんだろう!」

「えーー…面倒臭いなあ…」

「そんな!先生!そろそろ術とか教えてくださいよう!!」

「佐助は術よりもまず体を鍛えることが先決だ!な!」

「…え?」


急に幸村様に話をふられて、戸惑う


(な!と言われても…)


自慢じゃないが私は料理しか取り柄がない

女だから戦に出たこともないし、知識もないのだ


(どうして私にふったんだろう…)



「…どーでもいいけどさ、うるさいから静かにしててくれない?これじゃあ、寝てもいられないんだけど」

「寝てたって…お前今までどこでグースカ寝てたんだ!?」

「え?あそこの木の上だけど」



(器用だなあ…落ちたりしないんだろうか?)


見上げた木はわりと高くて、眩しい陽射しに目を細める



「さすが先生!!あんなとこで寝てるなんて全然気付きませんでした!!」


目をキラキラさせて、佐助君が尊敬の眼差しを送ると、才蔵さんは怠そうに手であしらった


「佐助の鍛錬不足でしょ。大体あそこで寝てるし、むしろずっと気付いてなかったことに驚きなんだけど」


(えー…誰もあんなとこで寝てるなんて思いもしないでしょ…)


心の中で静かに突っ込みを入れた時


佐助君が何かを思いついたようにパッと顔を上げる














「かくれんぼしましょう!!!」














「「「は?」」」









全員が同時にきょとんとすると
佐助君が一気に捲し立てた






「だからかくれんぼですよ!!俺が鬼!そして皆さんには隠れてもらって!気配を探る練習にもなるし!別にひとつの場所に隠れなくても結構です!俺から逃げ回る!それを俺が捕まえて見せます!」


えっへんと言わんばかりに、胸を張る佐助君に才蔵さんが溜め息をつく



「あのさあ…そんなことするくら…

「名案だ!!!!!!!」



断りを入れようとした才蔵さんに被せて
幸村様が大声を上げた



「それは名案だ佐助!!それは俺が姿を隠しながら敵に近づく練習にもなるし!」

「幸村はいつも名乗りを上げながら堂々と戦いを申し込むから意味ないでしょ」

「対忍戦にも役立つかもしれん!」

「忍と戦う機会なんて、そうそうないし第一静かに出来ない幸村には向いてない」

「気配を探りながらとは…佐助にしてはいいこと言うな!」

「気配を探りながらって…勘助さんにも気付いてない幸村がそれ言う?」

「ねえ!先生!やりましょうよ!ほら!名無しさんも!」

「え?私も?」

「人数いた方が楽しいだろ!」

屈託なくニカッと笑う佐助君につられて、思わず頷くと
才蔵さんは、今日一番のはあ…と深い溜め息をつく


「……一回だけね」

「やったーー!!!」



こうして思いがけず、かくれんぼ大会が開催された










































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