恋乱W

□暑い夏には最高の甘さを
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「暑い…暑い…」

「暑い暑いってさっきからうるさいよ幸村」

「そういうお前は何故そんな涼しげなんだ?この纏わりつく暑さに気付いていないのか!?」

「幸村の修行が足らないんじゃない」

「そうか…修行不足か…よし!」

適当なことを言っただけなのに
本気にした幸村はダラダラと汗を流しながら再び竹刀を握り締めて修行とやらを始める

(全く飽きないのかね…)


俺はその様子を欠伸をしながら、ただ見ているだけ

そこへこれもまたいつも通りお盆を手にした名無しさんがパタパタと小さな足音を響かせやって来た


「お二人共、少し休憩されたらいかがですか?」

「むっ…名無しさん。俺はだな今しがた己の修行不足を才蔵に指摘され…」

「うん疲れた。俺は休憩する」

「疲れたって!お前はただ見ていただけだろう!」

「幸村見てるだけで疲れるの」

「何だと!というか!才蔵!お前も修行に付き合え!」

「嫌だよ。この暑い中」

「まあまあお二人とも、冷たいお茶でも飲みましょう!今甘いものもお持ちしますから」

「ああ、ありがとう名無しさん。助かる」

「結局幸村も休憩するの」

「…何か言いたげだな才蔵…」

「別に」

ダラダラと流れ落ちる汗を拭きながら、再びドカッと俺の隣に腰かけた幸村

そこへ名無しさんが優しい表情を浮かべながら甘味を運んで来た


「お待たせしました!」

「おっ。これは……?」

「団子じゃないの」

トゲトゲとした色とりどりの小さな塊

てっきり団子だと思っていた俺は目の前に出された未知の菓子に少しだけ肩を落としながら、名無しさんを見上げる

「実はこれ金平糖っていう南蛮から伝わる菓子らしいです!貴重なんですよ!」

「金平糖…?」

「食えるのか?」

「もちろんですよ!食べてみて下さい!」

恐る恐る手を伸ばす幸村を尻目に、ポイと一粒口の中に放り込むと甘い風味が口の中に広がった

「甘い…ね」

「ああ!甘い!何だこの甘さは!」

「でしょう?実は白砂糖が使われているんです!」

「へぇ…」

はっきり言って俺たちに料理の専門的なことはわからない

金平糖も何となく京で噂を聞いたことがある気がするが、そこまで興味がなかった

しかし未知の味に触れた嬉しさからか、楽しそうに話をする名無しさんを見て自然と俺も口許が緩やかになるのを感じる


その日の午後は幸村を交え、何気ない話をしながら穏やかに過ぎていったのだったー…
























「今日も…暑いな…暑い…暑い…」

「毎日毎日同じこと言って同じことやって飽きないの」

「もう暑いと言うか…日差しが痛い…」

文句を言いながら竹刀を振り回す幸村

それをただ黙って眺める俺

昨日と同じ光景だ


「ほんと…今日も暑いですね」

洗濯物を軽快にパンパンと干しながらニッコリと笑いかける名無しさんと竹刀を振る幸村を眺めていると

不意に名無しさんの身体が後ろへ傾く


「っ…!」

「あっ…おい…名無しさんっ!!」


地面に叩きつけられる寸でのところで名無しさんの身体を受け止めると

その熱さにドクンと心臓を握り締められた感じがした


「おいっ!大丈夫か!名無しさんっ!!」

名無しさんは意識もないようで、顔を赤くし、呼吸が荒い


「幸村…水たくさん汲んできて。あと薬師呼んできてもらって」

「あっ…ああ!わかった!」


幸村は井戸から大量の水を汲みながら、近くを通りがかった家臣に薬師を呼ぶようにと叫ぶ


(身体が熱いのに汗をかいていない…考えられるのは…)


「才蔵っ!水!汲んできたぞ!」

「ありがと」

「この水をどうする…っ!おい!」

俺はすぐに幸村が汲んできた水を名無しさんの身体に容赦なくかけた

「才蔵っ!お前何してんだ!」

「いいから。幸村は黙ってて」

手を休めることなくバシャバシャと名無しさんの身体に水をかけながら薬師の到着を待つ


「…幸村、何顔赤くしてんのさ」

「あっ…いやっ!これはだな!」

「幸村にも水かけた方がよさそうだね…」

水をかけたせいでピッタリと身体に張り付いた布

いつもはその線を隠していた彼女の身体を水がはっきりと浮き上がらせている

(この非常時にそんなことで苛つく俺も大概だね…)

「おっ…何か門前が騒がしいな!薬師が到着したのかもしれん!呼んでこよう!」

逃げるようにその場を後にした幸村を見送りながら

冷たい水を火照った名無しさんの身体にかけ続けたー…




















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