恋乱W

□殿様遊び
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「殿様だーれだっ?」


慌ただしい夕餉を終え、部屋に戻ろうかと広間を横切った時

何やら楽しげな声を聞き、チラリと広間を覗いてみる


「何しているんですか?」

「おお、名無しさんか。ちょうど良かった。お前も混ざれ」


酒の入った猪口を片手に信玄様が手招きをする

広間には何人かの女中と家臣の方々

それに顔を真っ赤にした幸村様が座っていた


「皆さんお揃いで何されてるんですか?」

「殿様遊びだ」

信玄様はニヤリと笑いながら、猪口を一気にクイと煽る


「殿様遊び?」


聞きなれない遊びに私は首をかしげると、信玄様はまあ座れとばかりに手で促した


「お前もやればわかる。結構楽しいぞ」

「はあ…」

こうして訳がわからぬまま、''殿様遊び''とやらに参加することになったのだがー…















「殿様だーれだっ?」

「よし!俺だ!じゃあ二番が五番を…抱擁する!」

「うげぇっ!男同士かよ!」

「俺だって嫌だ…」


(こ…こういうことか…)


先程、幸村様が顔を赤くしていた理由が漸くわかった

もしこの組み合わせが男女であったなら…

そしてそれが私だったら…



(才蔵さんにバレたら一体どうなっちゃうんだろう…)


どういう遊びか知っていながら、参加したと知られては

絶対に嫌な思いをするに違いない

もし逆の立場だったら…と考えると胸が痛む

意を決して私は抜けようと信玄様に言ってみることにした


「あのー…信玄様…私は抜けさせて…」

「いいじゃねぇか。たまには他の男も悪くないぞ?」

(ほっ他の男って!!)

「し、しかし御屋形様!名無しさんには才蔵が…」

「あの才蔵の余裕のない姿を見るのも一興。面白そうじゃねぇか」

「は…はあ…」


(信玄様…完全に面白がってるな…)


「…名無しさんさんとだけは絶対当たりたくないな…」

「ああ…才蔵殿に知られたらどうなるかわからん…」


家臣の方々のヒソヒソ話が聞こえる


まるで腫れ物に触るような扱いに居心地が悪くなり始めた時



「次はー…一番が三番と…接吻!」

「せっ…せっぷーん!?」


皆さん既に酔いが回っていい感じになっている

素面なのは私くらいで、私の紙は三番


一番は…


「お、一番は俺か。三番は誰だ?」


(し、し、信玄様ーー!??)


「俺は二番だ」

「私は四番です」


皆が口々に自分じゃありませんと言った後で、全員の視線が一気に私に集中する


「ふっ…三番は名無しさんか」

「あ…あの…」

「お、御屋形様!」


オロオロする幸村様を他所に、信玄様は私をじっと見つめ

その逞しい腕を私の方へと伸ばした


「来い。もう他の男じゃ物足りなくなるくらいのヤツくれてやるよ」

「おお!流石は我が御屋形様!」

「きゃーっ!名無しさんさん、羨ましいっ!」

「男らしいですな!」

「あ…」


力強い腕に引かれて、信玄様の端整な顔立ちが近付いたその時…









「それは困りますね」

「っ!」


どこから現れたのか、いつの間にか私は才蔵さんの胸の中に収まっていた


「信玄さんに吸われたら名無しさんの唇なくなっちゃいますよ」

「っ!?!?」

「くっ…お前は相変わらずいいところで登場してくれるな」

「それはどーも」

「せっかく初心な名無しさんに大人の男ってもんを教えてやろうと思ったのに…」

「結構。若い人は若い人同士の楽しみ方ってのが、ありますので」

「たまには年寄りの言うことも聞いとくもんだぞ」

「へぇ…信玄さんはアッチの方は若い人より激しいって有名ですけどね」

「よく言う。お前だって毎夜名無しさんをヒィヒィ言わしてるくせに」

「っっっ!!!」


(はっ恥ずかし過ぎる!!!)


才蔵さんと信玄様の間で繰り広げられる激しい会話に、家臣の方々は皆ポカーンと口を開けている

幸村様に至っては今にも卒倒しそうだ


「…じゃあ、失礼します」

「あっ…」


才蔵さんに腕を引かれ広間を出る間際、チラリと後ろを振り返り頭を下げると

自信満々の信玄様の笑顔が目に入った


「名無しさん、大人の男が欲しくなったらいつでも来るといい!」

「っ!あ…はあ…」


珍しく余裕無さげな才蔵さんに、余裕綽々の信玄様


肯定とも否定ともとれない曖昧な返事をして、私は連れられるがまま才蔵さんの部屋へと向かうのだったー…
















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