恋乱W

□彼に隠された真実
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風も少しずつ冷たくなって


女の大敵である食欲の秋が来た



「姉ちゃん!今日はいい柿が入ったよ!」

「わあ!本当に美味しそう!頂こうかな」

「まいど!」


私はこの日、珍しく一人で買い物に出ていた

才蔵さんは今朝から姿が見えなくて

きっとこんな時は里の重要な任務なのだろうと、一人で出てきたのだ


「ぅぅ…お腹空いたなあ…早く帰ろっと」


今日の買い物はそんなに重たい物はない

いつもより身軽に城への帰路を急いでいると、向こう側から三人の男性が歩いて来るのが見える


道を譲るため端に避けると、一人の男性が私の顔をチラリと見た


「っ!!おっおい…!」

「?」


私の顔を見るなり驚いた男性が真ん中にいる男性の肩を叩き…


「おっ…嘘だろう…!?」


(なっ…何??)


同じく私の顔を見て驚きの表情を浮かべる


「あのー…どこかでお会いしました…んぐっ!」

「手間が省けたな…」

「全く不用心もいいとこだぜ」

「そんだけ俺らが舐められてるってことだな…」

「んー!んー!」


突然口を塞がれ、体の動きを封じられる

全く訳がわからない私は出来る限りの抵抗をしてみたが、男三人に女一人

敵うはずもなく…


「おい、誰かに見られたか?」

「いや、大丈夫だ」

「よし。早く連れてくぞ」

「んー!!んーーー!!」


必死に誰かに助けを求めるも、塞がれた口では''助けて''と叫ぶことも出来ず

私は一人の男性の肩に担がれて、深く続く林の中へと連れて行かれたのだったー…











「姫様の護衛ねぇ…」

「はい」

「そんなの俺じゃなくても里の誰かで十分じゃない?」

「''里一番の忍''と念を押されておりますので…」

「ふーん…んで報酬は」

「既に族長へ納められております」

「…………」


(あのクソじじい…)


たんまりと金を積まれたから、俺に依頼が来たのだろう

本来なら俺も、ましてや清広の手も煩わせる筈のない任務


「いつまで」

「そうですね…最低でも三日は要すると…」

「一日でやって。それ以上は付き合わない」

「…御意」


清広はフッと俺の前から姿を消して

任務へと出かけていった


(何で俺が護衛なのさ…)


今回の任務はある大名からの依頼で、その娘である姫の護衛と、姫の命を狙う元、家臣の暗殺


清広はそちらの暗殺の方へと向かった


俺に暗殺以外の依頼が来ることはかなり珍しい


…というか、来ても受けない


今回はかなりの金を積まれたのだろう


族長直筆の密書が届いたのがいい証拠だ


(面倒くさ…)


しかし清広なら一日かからずとも、必ず暗殺を遂行してくれるだろう

俺はただ、どこかの姫君の見張りをしていればいい


楽な任務の筈だった



姫の顔を見るまではー…















「貴方が私の新しいお付きの方?よろしくね」

「ーーー…」


まさか姫に命を狙われているとは言えないため、俺は新しい付き人として紹介された


しかしその姫の顔を見て思わず言葉を失う


「…?おい姫様がよろしくと申し上げているのだぞ」


トンと姫の家臣に肩を叩かれ、ハッと我に返った


「……宜しく」

「…随分大人しい人なのね?」


クスクスと笑うその顔

背中まで流れる亜麻色の髪



背格好や、俺を見つめるその大きな瞳さえ


(似てる…)



その姫は、まるで双子かのように名無しさんにそっくりだった



「……………」

「…私の顔に何かついてる?」

「お…おい…」

「あ…いえ…綺麗な方なのでつい驚いてしまいました」


ニッコリと笑顔を作ると、姫は照れ臭そうに笑って

そんな仕草も名無しさんにそっくりだと、しみじみ思う


事情を知っている家臣が、訝しげに俺を見てそっと耳打ちをした


「おいお前…姫様に手を出そうなんて…」

「するわけないでしょ」

「は…?」

「生憎、俺の姫は他にいるんでね」




















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