怪盗X

□夢の続き
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俺には最近小さな悩みがある










「拓斗さん…」

「名無しさん…」

目の前に立っているのは最近仲間入りした名無しさん

まあ、小うるさい女だ

特に何の取り柄もないが、ダヴィンチの孫ということでBFに入ったわけだが…

不幸にも俺は仲間に裏切られ、こいつの子守役を押し付けられた

キャンキャンうるさい子犬みたいな女

そう思っていたハズなのに…



俺の目の前にいるチビな名無しさんはゆっくりと顔を上げる

潤んだ瞳に濡れた唇、少しだけ紅潮している頬

そして静かに長い睫毛を伏せて目を閉じるのだ

考えるまでもない

俺は吸い寄せられるように名無しさんの唇に自分の唇を近づけて…












「っっっっっ!!!」



いつもそこで目が覚める


ヒョイと窓を見ると朝日がカーテンの隙間から漏れ出て、
体を起こすと同時に、ベッド脇に置いてある携帯がけたたましくアラームを鳴り響かせた

もう最近の日課になりつつあるこんな朝


(ったく…何だってんだよ…夢の中でも子守とかふざけんなし…)


心臓が自分でもわかるくらいに激しく鼓動している


何回か深呼吸を繰り返し、気怠い体に鞭を打って、ようやくアラームを止めた

「……バカみてぇ…」


ただのキス


しかもただの夢


それなのに体は反応してしまうらしく、ジッと下半身が落ち着くのを待ちながら深い溜息をつく



(欲求不満…?)



情けないような、虚しいような複雑な思いのまま仕事に行く支度をする

ここ最近、毎朝こんな思いをするのだ

これが俺の最近の悩みである




























(っつったって、メンバーにはこんな相談できねーし…)

どうせみんなにからかわれるだけなのは目に見えている

カチャカチャとキーボードを打ちながら悶々とする俺

俺はどうやら元々周りからは声をかけづらいと思われているようだが
最近はこの悩みのせいでより一層、話しかけるなオーラを放っているらしい


まあ、あんまり馴れ馴れしいのも嫌いではあるけど…
仕事となると伝達やらが遅れて少しだけ困ることもある


(あー!何かイラつく!)


自分でもよくわからない苛々をキーボードにタン!と叩きつけて時計を見ると、ちょうど昼休みが近づいていた


(今日はイタリアンって気分…)


いつもなら昼は食わないか、適当にコンビニで買って済ませるところだが頭の中にチラつくのはアイツの顔

誘ってみるか?

でもどうやって?

生まれてこのかた、女を食事になど誘ったことがない


「くっそ…どうにでもなれ…」

小声で悪態をつきながら会社を飛び出した


目的はアイツのいる博物館


(確かめてやろーじゃねーの)


よくわからない意気込みと共に、やや駆け足でアイツの元へ向かったー…

































(肉体派じゃねーのに、何でこんなこと…)


上がる息を整えつつ、名無しさんのいる博物館の門まで来ると時間は昼を少し過ぎた頃

「ってかアイツ今日いるのかよ…」

すっかり忘れていたが、果たして今日出勤だったのかもわからない

肝心なことを忘れていたと、自分の行動に少しだけ後悔していると…


「名無しさんさんー!!」

「っ!」


博物館の前からアイツの名前を呼ぶ男の声が聞こえた

ふとそちらに顔を向けると、ちょうど出てきたところを
いかにもナヨナヨした感じの男が引き止めている


(誰だよあの男は…)


自分でもわかるくらいに怒りが沸沸と込み上げてくる

会話は聞こえないが二、三言話した後、二人で歩き出した

仲良く話しながらこちらへ向かってくる

もう何だか頭より先に体が動いていて、気付けば真正面から二人に向かって歩き出していた


「名無しさんさんっ!今日は何食べますか?」

「ん〜…今日はイタリアンって気分かなあ…って、わっっ!!」

「行くぞ」

「んぇっ?あっ…え??」

ガシッとアイツの細い腕を掴んで、スタスタとまた元来た道へ引きずって行く


「えっ?ちょっと?名無しさんさんっ!?」

「やっ…何ですか…!ちょっ…カモノハシくーーん!!ごめん!ランチはまた後日!ごめんねっ!!」

俺に引きずられながらも"カモノハシ君"とやらに謝っている名無しさんに苛々しながら、目的のイタリアンレストランまで腕を掴みながら向かったのだったー…

























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