怪盗X

□夏の思い出
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「お祭り?7日に?」

「そう!名無しさんも彼氏と行くんでしょ?」

「ん〜〜…特に約束はしてなかったけど…」

そろそろ寝るかと布団に入るや否や、けたたましく鳴り響いたスマホ

気だるげに持ち上げて見ると”蘭子”からの着信が表示されている

寝るのは諦めて電話に出ると、間髪入れずに7月7日に行われる七夕祭りの話を始めた

(拓斗さん人混み嫌いだからな〜…)

長電話になると思い開けたポテチをパリパリと食べながら、そんなことを考える

「何よ〜行かないの?」

「ん〜拓斗さん人混み嫌いだし…多分嫌がると思う…」

ましてやデスクワーク中心の生活をしているなら尚更

拓斗さんは人混みが嫌いというだけではなく、そもそも出不精なのだ

「何だ〜せっかく浴衣姿撮ってあげようと思ったのに〜」

「蘭子は仕事なの?」

「そうよ!特集頼まれちゃって…写真とか撮ったり、盛況ぶりを記事にするつもり!

あのカッコいい彼氏となら記事のトップ飾れるのに…何とか引っ張って来れないの?」

(それが目的か…)

どうやら楽しそうなお祭りにも全く興味を示さない親友の蘭子は

拓斗さんを撮るために私に電話をかけてきたらしい

「記事に載るなら尚更。拓斗さん絶対嫌がるし」

「あ、じゃあもう一人いたでしょ?可愛い男の子!あの子でもいいから!」

(可愛い男の子…って宙君!?)

「無理無理!宙君とお祭りに行ったなんて拓斗さんに知られたら…私二度と蘭子に会えないかも…」

「はあ?」

ああ見えて拓斗さんは結構ヤキモチ妬きなのだ

例え仲間であっても、他の男性とお祭りに行ったなんて拓斗さんが知ったら…

ぞわぞわと背中に冷たいものが走る

「ねぇ〜お願い!このとーり!一応彼氏にお祭りの話だけでもしてくれないっ?」

「え〜〜〜…」

こうなると蘭子は強い

気乗りしない私に畳み掛けるかのように”一生のお願い!”と拝み倒すのだ

ついに根負けした私は…

「全く…蘭子の一生は一体いくつあるのよ…話してみるだけだからね!?期待しないでよ?」

「きゃー!ありがとう名無しさん!流石私の親友!決まったら連絡ちょうだいね!あ、当日はちゃんと浴衣を着ること!OK?じゃあっ!」

「あっちょっと!まだ行くって決まったわけじゃ…っ!…切れちゃった」

嵐のような電話も終わり、食べかけのポテチをパリンと齧る

(拓斗さん…何て言うかな…私は一緒に行きたいけど…)

拓斗さんとの七夕デートを妄想しながら、再びベッドに横になり

気付いたら深い眠りへと落ちていったのだったー…




















「は?祭り?行くわけねーし。面倒くせぇ…」

(やっぱりね…)

翌日、期待を裏切らない返答にガックリと項垂れる私

期待を裏切らないというか想像通りというか…

仕事終わりに黒孤で待ち合わせしていた私達は会って早々、七夕祭りの話を持ちかけたが…

「拓斗さん〜行きましょうよー!」

「ゼッテェーやだ」

「…たっくん名無しさんちゃんがここまでお願いしてるんだから行ってあげたら?」

見かねたボスが助け舟を出してくれるが、それでも拓斗さんは”行かない”の一点張り

(こりゃ無理そうだな…)

心の中で蘭子に謝りながら諦めの溜め息をついたその時…

「こんばんはー!あ、今日は珍しくたっくんと名無しさんちゃんがいる!」

「あ、宙君久しぶり。こんばんは」

「うるせーのが来た…」

「宙君いらっしゃい!」

宙君は私の隣に座り、ビールを注文すると何の話をしていたのかと問いかけてくる

「七夕祭り?」

「そう。でも拓斗さんがなかなかいい返事をくれなくて…」

「別に祭りなんて、ただ疲れるだけだろ」

「ふーん…あ!もしかしてたっくん…」

「?」

「な、なんだよ」

「ただ他の男に名無しさんちゃんの浴衣姿見せたくないだけだったりしてー?」

「っ!!?」

「なっ…!んなわけねーだろ!そっ…そんなんじゃっ!」

「慌てるとこがまた怪しい〜」

「バッ!だから違うって!」

宙君がこのこのと拓斗さんを指でつついて、からかう様子を笑いながら眺めていると

拓斗さんはキッと私を睨みつけて、顔を赤く染めながら怒り出す

「おい!い、行くぞ!祭り!」

「へ?」

「宙にまで馬鹿にされてたらたまんねー!行ってやる!」

「本当ですか!?」

「ただし!すぐ帰るからな!」

「ありがとうございます拓斗さん!」

「たっくん優し〜〜惚れちゃう〜!」

「だーっ!やかましいっ!いい加減離れろ!」

(行ってくれるんだ…お祭り…)

宙君に後押しされ、諦めたように承諾してくれた拓斗さん

理由はどうあれ初めてのお祭りデートに私は浮かれ気分で、揉み合う二人を眺めたのだったー…













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